
脳卒中の後などに、食べられなくなったり、飲みこめなくなる障害が出ることがあります。
この障害の事を摂食・嚥下(せっしょく・えんげ)障害といいます。
今まで当たり前のように食べたり飲んだり出来ていたことが、脳卒中になることによって急に出来なくなって、本人はもちろん家族も戸惑うことが大きいのではないかと思います。
ここでは特に脳卒中後の摂食・嚥下障害についてや、具体的にどのような症状がでるのか、対処法などをお伝えしたいと思います。
もくじ
摂食・嚥下(せっしょく・えんげ)障害とは
摂食・嚥下障害とは
食べ物や飲み物を外から口の中に取り込んで、のどを通り、食道を通って胃に送り込むまでの一連の動作が、なんらかの要因でスムーズに出来なくなること
摂食・嚥下のメカニズム
摂食嚥下は5段階に分けて考えるととても分かりやすいです。
摂食嚥下の5段階
- 食べ物を認識する 先行期
- パクパク、もぐもぐ 準備期
- まとめて、送り込む 口腔期(こうくうき)
- ゴックンと飲み込む 咽頭期(いんとうき)
- 胃まで運ぶ 食道期
もっと詳しくメカニズムについて知りたい場合はこちらの記事をご参照ください
摂食・嚥下障害が起こる原因
摂食・嚥下障害が引き起こされる原因は大きく分けて3つあります。
器質的障害
食べたり、飲んだりするのに使われる器官そのものに原因がある場合
(例)舌のガンを手術で切除した後など
機能的障害
見た目の器官そのものは問題はないが、食べたり、飲んだりする動きに原因がある場合
(例)脳梗塞で舌にマヒがある時など
心理的障害
器質的にも機能的にも問題はないが、食べたり、飲んだりすることが出来ない場合
(例)精神的ショックのあと、うつ病、認知症など
このように、摂食・嚥下障害が引き起こされる原因はたくさんありますが、ここでは特に脳卒中後に起こる摂食・嚥下障害について詳しくお伝えしたいと思います。
脳卒中後に摂食・嚥下障害が起こるわけ
脳卒中とは、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血のことを言います。
何らかの原因で、脳の中の血管がつまったり(脳梗塞)、血管が破れたり(脳出血、くも膜下出血)した場合に発症します。
血管が詰まったり、破れたりすることで脳細胞の血流が悪くなったり、脳細胞が壊死してしまった部位が、口や舌、のどの運動神経の命令を出す部位であったり、飲み込みの命令を出す部位であったりすると、摂食・嚥下障害が起こります。
飲み込みに全く関係ない部位の梗塞や出血では、摂食・嚥下障害は起こらないので、すべての脳卒中の場合に摂食・嚥下障害があるとは限りません。
脳卒中は2回目、3回目と繰り返して発症する場合もあります。
1回目では摂食・嚥下障害がなくても、脳卒中を繰り返せば、繰り返すほど起こる可能性は高まりますし、重症化しやすい傾向があります。
摂食・嚥下障害になるとどうなるのか
脳卒中の状態によって、あらわれる摂食・嚥下障害も軽度から重度まで重症度は変わってきます。
摂食・嚥下障害がありながらも何とか食事が食べられる方もいれば、まったく食事をとることのできない方までいろいろなレベルの方がいます。
軽度の場合の症状例
- 水分を飲むときにむせる
- 口の中に食べ物が残る
- 食べているときに食べ物がこぼれる
- よだれが出やすい
- 食べるのに時間がかかる
このような症状の場合は、食事の形態や、姿勢、食べるときの工夫などで、食事をとることが可能です。
重度の場合の症状例
- 食べ物を噛んで、まとめて送り込むことが出来ない
- ゴックンと飲み込めない
この場合だと、食べること、飲み込むことが非常に難しいです。
また誤嚥性肺炎を引き起こす可能性もあります。
誤嚥性肺炎についてはこちらをご覧ください
摂食・嚥下障害への対処法
リハビリテーション
脳卒中後にはできるだけ早期ににリハビリが開始されます。
意識レベルや病状に合わせて、できることから始めます。
摂食・嚥下リハビリには、大きく分けて直接訓練と間接訓練の2種類あります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください
食事・栄養
言語聴覚士や看護師などによって、食べられると判断された場合には、食事が開始になります。
食べやすいように、また飲みこみやすいように工夫した食形態のものが提供されることが多いと思います。
高齢者の嚥下障害の方に食べやすい形態についてはこちらの記事に詳しく書かれています。
逆に、現時点では食事を食べることが難しいと判断された場合には他に栄養を摂る手段を考えなければなりません。
他の手段としては
- 胃ろうから栄養を撮る
- 鼻からチューブを入れて栄養を摂る
- 点滴で高カロリーの輸液を入れて栄養を摂る
などがあります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
現時点では口から必要な栄養量を取ることが難しくても、リハビリをすることによって食べられる可能性がある場合もあります。
その場合には一時的に胃ろうをつくり、栄養をしっかり取ることをおすすめします。
家族にできること
私たちは、食べるときに口や、舌やのどの動きを意識して食べているわけではありません。
生まれたときから、誰にも教わることもなく自然に飲みこむことはできます。
さらに、おしゃべりしながらでも、テレビを見ながらでも、他に何かしながらでも食べたり飲んだりすることはできます。
食べたり、飲んだりすることは、あまりにも当たり前のことで、とても簡単なことだと思いがちです。
でも一度そのメカニズムが壊れてしまうと、今まで当たり前すぎて考えることもしなかった「飲みこむこと」「食べること」を意識してしなければならなくなります。
摂食・嚥下障害になると、飲み込むためにどこをどう力を入れて、どう動かせばいいのか分からなくなるのです。
それがどれだけ苦痛なことか。
それを見守る家族は、当たり前のこと過ぎて、できないことが理解できません。
なので、無理に食べさせたり、飲ませたりしてしまいがちです。
「早く元気になるためには、これだけは食べなくちゃいけないよ」と無理強いしてしまいます。
でも、摂食・嚥下障害の方は食べたくても食べられないのです。
食べることが苦痛なので、食べたくなくなってしまうこともあります。
そんな思いを察してあげることも必要だと思います。
そして無理に食べさせたり、飲ませたりすることが、とても危険な場合もあるのです。
看護師さんや他の医療スタッフの方の指示に従うことがとても大事なことになります。
こちらの記事も是非ご参照ください。
まとめ
この記事では、特に脳卒中後に飲みこめなくなったり、食べられなくなったりする、摂食・嚥下障害についてまとめました。
摂食・嚥下障害というと、全く食べられないという状況をイメージしてしまうかもしれませんが、食べにくさ、飲み込みにくさを感じながら食べている方も多くいます。
本人の摂食・嚥下の機能を改善するためのリハビリを行うとともに、食事形態や姿勢、食べるときの工夫などをすることによって、できるだけ安全に食べられるようにするのが、私つばめをはじめとする言語聴覚士の役割の一つです。
家族の方も、看護師や言語聴覚士の助言に従って、ご本人さんを温かく支えてあげることで、摂食・嚥下障害の改善に向かうと思います。
口からしっかり食べることができるようになると、元気になられる患者さんを今まで多くみてきました。
焦らず、じっくりリハビリに取り組んで行くことがとても大切なことだと思います。
摂食・嚥下障害についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。