
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)を発症すると、急性期には約30%に嚥下障害がみられます。
我々言語聴覚士が、脳卒中を発症したばかりの患者さんに一番気にかけることは「誤嚥」です。
それは、時に命を奪ってしまうこともあるほど、危険なことだからです。
ここでは誤嚥がどういうものなのか、誤嚥するとどうなるのか、そして誤嚥を防ぐための方法をお伝えします。
誤嚥とは?
通常、食べ物や飲み物は、口からのどを通って、食道に入り胃に到達します。
しかし、嚥下障害の場合、食べ物や飲み物が誤って気道に入り、声門を越えて肺に到達してしまうことがあります。
食べ物や飲み物、異物などが誤って気管に入り、声門を越えて侵入しまうことを誤嚥と言います。
体を守るための体のしくみ
気道に食べ物や飲み物、異物が入ってしまうと、気道を塞いでしまい、息が出来なくなってしまう可能性もあります。
気道を守るため、私たちは「咳反射」という防御機構をもっています。
健康な人であれば、気道に食べ物や飲み物、異物に入りかけたところで強いむせ(咳)が出て、気道に侵入しないようになっているのです。
また、健康な人であれば多少誤嚥しても、気管支や肺の粘膜の絨毛運動によって、異物を排泄しようと働きます。
誤嚥したら、すぐに誤嚥性肺炎になるわけではありません。
咳が出ずに誤嚥することもある?!
気道に入りかかったところで咳が出るはずなのですが、実は次のような場合は咳が出ることなく、知らず知らずのうちに誤嚥していることがあります。
気管の粘膜の感覚が低下してしまったとき
高齢者の嚥下障害で慢性的に誤嚥していると感覚が鈍くなり、咳反射が起こりにくくなる
眠っているときの唾液の誤嚥
眠っているときは咳反射も、嚥下反射も起こりにくくなる
知らず知らずのうちに、誤嚥することを「むせのない誤嚥」(不顕性誤嚥 ふけんせいごえん)と言います。
誤嚥性肺炎になるとき
誤嚥性肺炎になる場合は、誤嚥そのもののほかに、次の要因が考えられます。
誤嚥の量
→一度にたくさんの量を誤嚥すると、咳で出したり、排泄機能では十分に出すことができません。また少量でも慢性的に誤嚥をしていると、気管の粘膜の感覚が鈍り、咳反射そのものが起こりにくくなります。
誤嚥したものの内容
→一度胃の中に入った食べ物が食道を逆流して誤嚥すると、胃酸によって肺の粘膜を傷害してしまい、重篤な誤嚥性肺炎を引き起こしてしまいます。
また寝ている間に、唾液と一緒に口の中の細菌を誤嚥すれば、肺の中で炎症を起こしやすくなります。
咳の力・体力・免疫力の低下
→脳卒中後は安静にしていることが多く、体力も低下します。咳をする力そのものが弱くなり、入りかけた食べ物をしっかり出すことが難しい場合、誤嚥しやすくなります
誤嚥を防ぐため胃ろうは有効?
口から食べると誤嚥するから、胃ろうを造ったり、鼻チューブを入れたりすることは誤嚥を防ぐために有効な手段なのでしょうか?
ここまで、読まれてきたかたは、この答えは、NOとお分かりいただけますね。
誤嚥には、食べるときにおこる誤嚥と、寝ている間に起こる不顕性誤嚥と、胃食道逆流による誤嚥があります。
食べるときにおこる誤嚥は、食べさえしなければしませんが、それ以外の誤嚥は残念ながら防ぐことが出来ません。
かえって、胃ろうや鼻チューブの場合は、一度胃に入った栄養剤が食道を逆流する「胃食道逆流」が起こることもあります。
この時は胃液が混じった栄養剤を誤嚥することになり、肺に達すると非常に重篤な肺炎を起こす可能性があります。
栄養剤を注入するときにはベッドを60度くらいにおこし、注入後も1時間程度起きたままの姿勢でいることが望ましいです。
▶参考記事
誤嚥を防ぐ鉄則はこの2つ
高齢者の死亡原因の第3位は肺炎ですが、その多くが「誤嚥」が原因となる肺炎と言われています。
しかし、たった2つのことに注意して頂くだけで、誤嚥のリスクを下げることができます。
その2つとは、
常にベッドは10度ほど背上げをしておくこと。(平らにしない)
日中もベッド上で過ごされている方は常に傾斜をつけておき、胃食道逆流をしないようにすることで誤嚥を防ぐ効果があります。また夜間寝ているときも、唾液や胃酸の誤嚥を防ぐため、ベッドを上げておきます。枕などを使って上半身を高くするほうほうでも構いません。
マウスケアの徹底。とくに就寝前は念入りに。
食事のあとはもちろんですが、就寝前に念入りにマウスケアをすることで、万が一唾液を誤嚥しても細菌がはいらないようにし、肺炎を防ぐ効果があります。食事をされていない方は必要ないと思われがちですが、口を動かさない分、唾液が回らず口の中が不潔になる傾向があります。食事をされていない方ほど念入りにマウスケアをする必要があると思ってください。
まとめ
誤嚥性肺炎はときに命を奪ってしまうほど、危険なものです。
しかし
- ベッドを常に10度ほど上げておくこと
- マウスケア(特に寝る前)
この2点を守るだけでも、肺炎を防ぐ可能性は高まります。
脳卒中を発症し、状態が落ち着いてきたところで、さぁ、リハビリ!というときに、肺炎を起こしてしまい安静が必要になってしまったら、リハビリのスタートが遅れてしまいます。
それはとてももったいないこと。
ほんのちょっとしたことに気をつけることで、誤嚥は防ぐことはできます。
担当の看護師や、言語聴覚士にも相談しながら、急性期の食事は慎重に進めていきましょう。
▶参考記事
摂食・嚥下障害についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。
誤嚥性肺炎についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。