
日本人の死亡原因の第3位である肺炎。
肺炎で亡くなるのは75歳以上の高齢者で、そのほとんどが「繰り返す誤嚥性肺炎」によるものといわれています。
たかが肺炎、されど肺炎。
誤嚥性肺炎は命を奪ってしまうほど、危険なものなのでしょうか?
なぜ誤嚥性肺炎は繰り返してしまうのでしょうか?
これらの疑問を考えるとともに、誤嚥性肺炎の再発を予防するための方法をお伝えします。
もくじ
誤嚥性肺炎とは
まず、誤嚥性肺炎とはどのような病気なのでしょうか?
食べ物や飲み物、その他(唾液など)が口からのどを通って、通常であれば食道に入るところを、誤って気道に入ってしまうことを誤嚥といいます。
この誤嚥をきっかけにして起こる肺炎が、誤嚥性肺炎です。
誤嚥性肺炎の症状
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検査画像所見
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繰り返すことで起こるリスク
薬が効かなくなる
誤嚥性肺炎になると、その肺炎を起こしている細菌を抑えるために抗生物質が投与されます。
誤嚥性肺炎を繰り返すたびに、抗生物質が使われると、細菌が薬に対して耐性ができてしまい、薬が効かなくなってきます。
長期の絶食の間にさらに嚥下能力が低下する
誤嚥性肺炎になると、点滴がはじまるとともに食事が止められます。
食べる、飲みこむという嚥下運動の機会がほとんどなくなり、さらに肺炎によって全身の状態が悪いのでおしゃべりすることも少なくなってしまいます。
嚥下運動に重要な役割を果たす口や舌、のどを動かすことがなくなってしまい、それを動かす筋肉は廃用しどんどんやせていきます。
その上、点滴だけでは栄養も不十分なので、体力も低下します。
安静にしていると2週間で筋力は15%落ちると言われています。
筋肉がやせて動かしにくくなる上に、全身の体力も落ちてしまい、その結果食べたり、飲んだりすることが難しくなってしまうのです。
肺炎になる前は普通に食べていたのに、肺炎後に嚥下能力が低下して食べられなくなってしまうという方はたくさんいます。
誤嚥性肺炎のダメージはこれだけではない
- 心臓の働きが低下して全身に血液を送ることができなくなる心不全を併発して死亡することがある
- 呼吸機能が低下して、酸素療法が必要になることがある
- 長期の安静のために運動機能が低下して寝たきり、要介護状態になることがある
- 精神機能が低下して、認知症が進行することがある
繰り返してしまう原因
嚥下能力の低下
肺炎を起こしているのは細菌ですが、根本的な原因は「嚥下能力の低下」です。
嚥下能力を回復するための、嚥下リハビリももちろん行われます。
しかし、脳卒中(脳出血・脳梗塞・くも膜下出血)後遺症で、回復期(発症から約半年。リハビリによる回復が見込まれる時期)を過ぎてしまうと、症状がほとんど固定してしまい、回復よりもいかに嚥下能力を維持していくかに重きを置かれます。
そこへ誤嚥性肺炎を起こすと、食べないことによる廃用や、体力低下で、さらに嚥下能力が低下してしまうのです。
また、認知症があるとこちらが言っていることが伝わらず、嚥下リハビリをすることそのものが難しい場合がありますし、そもそもリハビリへの意欲が伴わず、効果的なリハビリが行えないこともあります。
もちろん、すべての認知症の方が嚥下リハビリが難しいわけではありませんが誤嚥性肺炎を繰り返してしまうと、嚥下能力が回復するよりも、低下してしまうのが早いのが現状です。
▶参考記事
肺炎症状の分かりにくさ
通常、肺炎にかかると、咳・痰・発熱の症状が出ますが、高齢者の誤嚥性肺炎の場合は明らかな症状が出ない場合もあります。
以下のような症状がみられた時も誤嚥性肺炎の可能性があります。
- なんとなく元気がない
- 飲み込むのに時間がかかる
- ボーっとしている
- ウトウトしてしまう
- 食べる意欲がない
- 活動性が落ちてきた などなど
咳や痰、発熱のようなはっきりとわかる症状ではなく、「いつもと比べてなんか変だな」というくらいの軽い症状が誤嚥性肺炎の徴候のこともあるのです。
この症状に気が付かず、いつものように食べさせたり、飲ませたりしてしまうと、重篤な誤嚥性肺炎につながってしまうこともあります。
とくにご自宅で介護をしている場合には、食欲がなくて元気がないと思い、心配になって余計に無理に食べさせてしまいがちです。
食欲がない時には無理をさせないことも大切ですし、元気がなく心配であれば、かかりつけ医に相談してみてください。
▶参考記事
再発を防ぐための方法
誤嚥性肺炎を繰り返す高齢者には、なかなか嚥下リハビリを実施して本人の嚥下能力を改善させることは難しいですが、介護する側が気をつけることで再発を防ぐことは可能です。
誤嚥を防ぐための2つの鉄則
肺炎の原因となっている、誤嚥。
脳卒中の急性期の嚥下障害で誤嚥を防ぐ2つの鉄則は高齢者の誤嚥性肺炎の方にも有効です。
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▶参考記事:
食べる姿勢
意外とおろそかにされてしまうのが、食べる姿勢です。
ベッドで寝たきりになると、ご本人も介護者も起こすのが億劫になって、寝たまま食べさせてしまうようなこと、ありませんか?
食べる姿勢を整えることも誤嚥を防ぐことにつながるので、食べる前には必ず姿勢を整えるようにします。
一番、誤嚥しにくい姿勢は、ベッド上30°にして顎を軽く引く姿勢です。
画像素材引用元:http://nursereport.net
この姿勢のつくり方についてはこちらの記事を参照してください。
▶参考記事
もちろん、座ることができる方は座って食べてください。
その時に、足がしっかり床について体を支えられるような高さの椅子に座るとベストです。
車椅子の場合はフットレスト(足台)から足を下ろし、床につかない場合は、台を置くなどして、足が浮くことのないようにしましょう。
食べるのにいい姿勢は、その人その人によって違います。
体力的に無理なのに、リハビリだからといって車椅子に座らせてしまうのは、逆に食べることに集中できず、逆効果です。
「楽に30分は座っていられる姿勢」で食べるのがいいですね。
食事形態
嚥下能力にあった食事形態のものを食べていますか?
よく病院や施設では、嚥下食としてキザミ食が提供されていることがありますが、キザミ食は「歯のない方」のための食事であって、嚥下障害の方への食事形態ではありません。
それでも安全に食べられるのであれば、キザミ食もよいですが、食べることに長く時間がかかるようでは、食べにくいのかもしれません。
1口ゴックンとしたあとに、口の中に食べ物がたくさん残っているようであれば、食事の形態を見直した方がよいかもしれません。
ミキサー状、ペースト状など食感が均質で粒のないようにしたり、キザミ食の上にとろみ状のものをかけることで口の中でまとまりやすくしたりするとよいでしょう。
各食品会社から、介護食、嚥下食、やわらか食、ソフト食などの名称でレトルト食品が販売されています。
品目も豊富ですし、温めるだけで食べられるので、レトルト食品を利用するのも一つの方法と思います。
こちらの記事もご参照ください。
食事介助方法
自分で食べられない方は、介護者が介助をされていると思いますが、その介助の方法を工夫することでも、誤嚥を防ぐことができます。
- 食事はできるだけ30分以内に終えるようにする
- 必ず「ゴックン」を確認してから、次の一口を
- 話しかけるタイミングに気をつける
- むせたら少し休むこと
- 介助者は座って介助すること
- できるだけ介助の負担を減らすこと
- 食べ終わったらすぐにマウスケア。義歯は外して洗うこと
- 食後20~30分は姿勢を起こしておくこと
このようなことに気を付けて食事介助をしましょう。
▶参考記事
まとめ
誤嚥性肺炎を繰り返してしまうたびに、嚥下能力が低下し、いずれは口から食べられなくなってしまう…ということができるだけないように、誤嚥を防ぐ方法をお伝えしました。
観察を怠らず、少しでも変化があったら慎重に、ぐらいでちょうどよいのではないかと思います。
こちらの記事も参考にしてください。
▶参考記事
この記事を書くのにあたり参考にした書籍です。
セミナー わかる!摂食・嚥下リハビリテーション2巻 誤嚥性肺炎の予防と対処法
セミナー わかる! 摂食・嚥下リハビリテーション2巻誤嚥性肺炎の予防と対処法 (セミナーわかる!摂食・嚥下リハビリテーション)
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摂食・嚥下障害についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。
誤嚥性肺炎についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。