「口から食べられない」ってどういうこと?専門家はどう判断しているの?

 

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脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)後に、食べられなくなったり、飲みこめなくなったりする摂食・嚥下障害があらわれることがあります。

この摂食・嚥下障害のリハビリテーションを行うのが、言語聴覚士の仕事のひとつです。

言語聴覚士がリハビリテーションを行うのにあたって、摂食・嚥下機能の検査し、評価をします。

評価をするというのは、その時点での患者さんの状態を診て、問題点を抽出し、どんなリハビリをすれば改善できるのか、その患者さんに必要な援助は何なのかを考えることを言います。

摂食・嚥下障害の患者さんの評価で一番大切なのが、「この患者さんが食べられるのか、食べられないのかをしっかり判断すること」です。

この判断をするのは、とても責任が重大です。

食べることが本当は危険なのに「食べられる」と判断してしまい、患者さんが食べて誤嚥性肺炎を起こした、ということはあってはならないことだからです。

しかし、患者さんやそのご家族にとっては、医師から「口から食べられない」と突然言われると、戸惑い、不安になってしまうのではないでしょうか?

ここでは食べることの専門家である言語聴覚士がどのように患者さんを診て、「口から食べられない」という評価をしているのかご説明したいと思います。

 

言語聴覚士が診ているもの

患者さんと会う前に

言語聴覚士が一人の患者さんと会う前に、カルテや前の病院・施設からの紹介状などを確認したり、病棟の看護師さんに話を聞いたりして、ありとあらゆる情報を集めます。

例えば、

既往歴…これまでにかかったことのある病気について。

現病歴…今回入院することになった病気についてのこれまでの経過。

家族構成…何人家族なのか、主に看護・介護するのは誰なのかについて。

現在の全身状態…今患者さんの病状はどのような状態なのか。リハビリを行う上で注意しなければならないことは何か。

合併症…他に合わせ持っている病気は何か。

入院前の生活…自分の事は自分で出来ていたのかどうか。介護が必要な状態だったのか。認知症があるかどうか。

CTやMRI画像、検査結果データ…病状を客観的にみるために確認。

一見、飲みこむこと、食べることには関係のないように思えるかもしれませんが、このように多くの情報を得てから、実際に患者さんに会いに行きます。

 

患者さんの何を診るか?

患者さんにお会いすると、まずは顔を診て、声をかけます。

何気なくお話しをしながら、顔面にマヒがないか、声が出るかどうか、発音はきちんとできるかを診ます。

それから、摂食・嚥下障害で問題となる、口の中とその動き、飲みこみの様子を確認します。

口を診る

口の中…きれいかどうか。

唇、舌、のどなどの動き… マヒはないかどうか。呂律が回らない場合は特にしっかり動きを確認します。

歯の状態…歯がそろっているかどうか。入れ歯を使っている方の場合は、その入れ歯がきちんと合うかどうかも確認します。

呼吸の状態…はぁはぁと息が乱れていないか、しっかり呼吸ができているかどうかを診ます。

飲みこみを診る

ここまで確認して、始めて飲みこむ様子を確認します。

状態に合わせて、以下の4つの方法で確認します。

  • 唾を飲みこむ(空嚥下 からえんげ)
  • ゼリーなどを飲みこむ
  • 水分を飲みこむ
  • 食事を食べているところを観察する

食事を食べている方の場合は、食事場面を観察できますが、絶飲食となっている方の場合は、上の3つで飲みこむ様子を確認します。

飲みこむ際に基準としているのは、摂食・嚥下の5段階です。

  1. 食べ物を認識する 先行期
  2. パクパク、もぐもぐ 準備期
  3. まとめて送り込む 口腔期
  4. ゴックンと飲み込む 咽頭期
  5. 胃まで運ぶ  食道期

この5段階のメカニズムに沿って、どの部分が難しいのかを観察し、問題点を探します。

問題点が分かると、それをもとにリハビリのプログラムを組み立てることができます。

 

摂食・嚥下の5段階についてはこちらの記事に詳しく書かれています。

 

さらに詳しく診るために~嚥下造影検査(VF)

いくら食べている様子を観察しても、体の中は診ることが出来ません。

そこで、口から食べ物を取り込んでから飲みこむまでの一連の流れをレントゲン透視下でビデオで撮影して、直接飲みこむ様子を観察できる検査をすることがあります。

実際にこのように撮影されます。

これはおそらくバリウム(造影剤)を含んだ水分を飲んでいるところだと思います。

この検査法を嚥下造影検査法(Videofluorographic examination :VF ブイエフ)と呼ばれています。

この検査をすることによって、外側からだけの観察では分からない、のどの動きが分かるだけではなく、食べ物がどこに引っかかりやすいか、気道に食べ物が入っていっていないか(誤嚥していないか)が一目瞭然で分かります。

問題点がはっきり分かるため、現状を把握するためにも、今後のリハビリテーションの計画を立てるためにも有用な検査です。

しかし、デメリットもあります。

被爆の影響…動画として撮影するため、どうしても被爆される時間が長くなってしまいます。また検査をするスタッフも被爆する可能性があります。

検査ができる人が限られている…検査者の指示に従って、食べたり、飲みこんだり出来ることが大前提です。重度の認知症のある方の場合では難しい場合があります。(全ての認知症の方が難しい訳ではありません)

実際の食事場面と検査場面の差異が出ることがある…検査の場合は、普段の食事と違い、患者さんにとっては緊張を強いられる雰囲気で飲みこまなくてはならなくなります。そのような雰囲気ではむせやすくなってしまう患者さんもいます。VFで全てわかるからといって、通常の食事場面の観察も怠ってはなりません。

最近では嚥下造影検査を実施できる医療機関は増えてきていると思います。

言語聴覚士が患者さんの現状を把握し、リハビリテーションの計画を立てるのに、この検査で得られる情報は有用ですが、デメリットもしっかり理解したうえで検査がされるべきだと思います。

ただ、評価をするための検査ではなく、どのような形態、どのような姿勢なら安全に食べられるのか、という検討までできるとよいと思います。

嚥下造影検査を受ける場合には、メリットだけではなく、デメリットもよく理解したうえで受けるようにします。

 

評価~「もう食べられない」というのは?

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患者さんの実際の飲みこみの様子や、食事の場面、嚥下造影検査などを診て、言語聴覚士は現在の状態を評価します。

「口から食べられるかどうか」については、大まかに言うと、次の3つのレベルに分けることになります

 

  • 3度の食事を口から食べることができる
  • 口から食べることはできるが、必要栄養量を取ることは難しい
  • 口から食べることは難しい

 

1.3度の食事を口から食べることができる

評価の結果、3度の食事を口から食べることができる、つまり、必要な栄養量を口から取ることができると判断された場合の事です。

この中には、摂食・嚥下の5段階のなかでどこかに問題があって、とろみをつけたり、飲みこみやすい形態にしたり、食事介助をすることによって、食事が食べられる方も含まれます。

 

2.口から食べることはできるが、必要栄養量を取ることは難しい

このレベルは、全く口から食べられないわけではないけれども、飲みこめる形態に制限があったり、飲みこむことに時間がかかってしまい、必要栄養量を口から食べることが出来ない場合です。

この場合は、補液とリハビリテーションのみで、飲みこむ力をつけ、必要栄養量を十分にとれるようにすることもありますが、改善に時間がかかりそうな場合は、鼻チューブ、胃ろうなどの他の栄養摂取手段を用いて、栄養状態を改善させつつリハビリを行い、最終的には口から栄養を取ることができるようになるのを目指します。

 

3.口から食べることは難しい

評価した段階で、

  • 全く嚥下反射が起こらない
  • 飲み込む機能が低下してしまい、誤嚥のリスクが高い
  • 全身状態が悪く、評価すらできない。
  • 食べる意欲がない

などのような場合は、この時点でその患者さんの1日の必要栄養量を口から食べることができないと判断します。

評価の時点で、食べることが出来なくても、摂食・嚥下のリハビリをすることによって、食べる可能性が見込まれることもあります。

そういう場合は、リハビリのための胃ろう造設をすすめられる場合があります。

 

リハビリのための胃ろう造設については、こちらの記事に詳しく書かれています。

 

しかし、

  • リハビリができる全身状態ではない
  • 認知症の影響でなかなかリハビリの効果が期待できない
  • リハビリすることで誤嚥のリスクを高めてしまう
  • 本人に食べる意欲がない

 

このような場合は、口から食べることをあきらめなければならなくなります。

 

となると、なんらかの栄養摂取手段を考えなければならないということになります。

医師から勧められるのは以下の3つの方法だと思います。

  • 胃ろうを造って栄養を摂る
  • 鼻チューブを入れて栄養を摂る
  • 高カロリーの点滴を入れる

それぞれ詳しくは以下の記事を参照してください。

 

高齢者の場合には口から食べられなくなったら寿命だ、という考えに基づき、「何もしない」ことを選択するという方もいます。

こちらの記事にまとめました。

 

まとめ

言語聴覚士は食べること・飲みこむことの専門家として、患者さんの評価をし、「食べられるかどうか」の判断をします。

それを主治医に報告し、主治医が患者さん、もしくはそのご家族に「口から食べられない」と説明します。

「口から食べられない」という判断がなされるまでの、言語聴覚士が実際に行っていることをできるだけ分かりやすく記事にまとめました。

飲みこむ能力、食べる能力だけではなく患者さんの全体像を診て、判断しています。

同じ「口から食べられない」という評価結果でも、現状では難しいけれど、今後のリハビリテーションによって少しでも食べられる可能性のある方もいます。

逆に、「もう」今後は口から食べられないという評価結果になる方もいます。

「口から食べられない」という話が医師からあった場合には、どちらの場合なのかによって、今後考えなくてはならないことが違ってきます。

医師や医療スタッフからよく話を聞いて、患者さん、そのご家族にとって一番最適な選択をして頂きたいものです。

 

医師の話を聞くときにはこちらの記事を参考にしてください。

 

☆言語聴覚士の方、もしくは言語聴覚士を目指している方へ☆

ここでは一般の方が摂食・嚥下障害について理解しやすいように、非常にかいつまんだ説明しかしておりません。専門家からすると説明不足な点が多々ありますが、分かりやすさを重視した結果このような説明の仕方となっているとご理解頂けるとありがたいです。

 

摂食・嚥下障害についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。

誤嚥性肺炎についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。

口から食べられなくなった場合の延命治療についてはこちらの記事をご覧ください。

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