
脳梗塞(のうこうそく)ってどういう病気かご存知でしょうか?
元プロ野球選手の長嶋茂雄さんや、歌手の西城秀樹さん、タレントの磯野貴理子さんなど有名人の中にも脳梗塞になられた方がいます。
もしかしたら、あなたのまわりでも、脳梗塞になられた方がいらっしゃるかもしれません。
脳梗塞とは脳の中の血管が狭くなったり、詰まったりすることで血流が滞り、その先の脳神経細胞に酸素や栄養が行き渡らなくなる病気です。
その結果、脳神経細胞が壊死し、手足の麻痺や言語障害などの後遺症が残り、重篤な場合は寝たきりになったり、命を奪う可能性のある恐ろしい病気の一つです。
この記事では、脳梗塞についてどんな病気なのか、一般の方でも理解できるように、できるだけ分かりやすく説明していきたいと思います。
もくじ
脳梗塞の3つのタイプ
脳梗塞は大まかに次の3つのタイプに分けることができます。
- アテローム血栓性脳梗塞
- ラクナ梗塞
- 心原性脳塞栓症
アテローム血栓性脳梗塞
動脈硬化が原因で起こる脳梗塞です。
動脈硬化とは血管の内側にコレステロールや脂肪がたまり、血管がその名の通り硬く、もろくなってしまう状態のことをいいます。
動脈硬化でもろくなった血管の内側が傷つくと、それを修復しようとして血小板が集まってきます。
血小板はかさぶたを作る働きをします。
血管内で傷ができて、かさぶたができると考えると分かりやすいのではないかと思います
これが血栓となり、血管を詰まらせ、血流を滞らせてしまいます。
血栓ははがれて血流にのって流れ、ほかの血管をふさぐこともあります。
アテローム血栓性脳梗塞は、脳の中の血管が血栓でふさがれてしまうことによって起きる脳梗塞です。
動脈硬化についてはこちらの記事をご覧下さい。
ラクナ梗塞
脳の中に入る動脈は徐々に枝分かれして、だんだん細くなります。
その細くなった動脈を穿通枝(せんつうし)動脈といいますが、その細くなった動脈が詰まることをラクナ梗塞と言います。
ラクナ梗塞も動脈硬化、特に高血圧が原因といわれています。
梗塞の大きさは5~15㎜程度の小さなもので、部位によっては症状が出ないこともあります。
症状が出ないほどの小さな脳梗塞は、テレビ番組や雑誌などでは隠れ脳梗塞という言い方をされているものもあります。
検査などをしてみたら、すでに脳のあちこちで脳梗塞が起きていた(多発性脳梗塞)ということもあり、認知症(脳血管性認知症)にもつながることがあるので、小さいからと言って侮れません。
心原性脳塞栓症
心房細動(不整脈)のある方がなりやすい脳梗塞です。
心臓は弱い電気が流れることによって、心臓の筋肉が動き血液を押し出しています。
しかし高齢になると、心臓の上部の心房に異常な電気信号が流れることがあり、1分間に300~500回の振動がおこります。
これが心房細動です。
心房細動が起こると、心房のなかで血の塊(血栓)ができやすくなり、その血栓が血液と一緒に、心臓から動脈にのって脳に入る血管を詰まらせるのが心原性脳塞栓症です。
太い動脈を塞いでしまうため、梗塞の範囲が大きくそれだけ重い後遺症が残ることが多いです。
脳梗塞の診断~CTとMRI
脳梗塞をはじめとする脳卒中が疑われると、画像診断も行われます。
真っ先に行われるのがCTです。
CTは脳の輪切りのレントゲン写真と思っていただければよいと思います。
短時間で撮影可能なので、必ずCTは行われると思います。
ただ、脳出血、くも膜下出血は出血源が白く撮影されるため、診断がつくのですが、脳梗塞の場合は、発症初期だとCT画像上には所見が現れないことがあります。
この場合は、MRI撮影が実施されます。
MRIでは、強力な磁力を使って撮影するもので、条件を変えてさまざまな角度から脳の画像を見ることができます。
初期の脳梗塞の所見も画像上で確認することができます。
ただ、CTとは違い、MRIでは撮影に時間がかかりますし、強力な磁力をつかっているため、体内に金属が入っている場合(歯の詰め物、心臓のペースメーカーなど)は検査ができません。
さらに、MRAという血管(血流)だけを撮影する方法もあり、その画像を見れば、どの血管が詰まっているのかが一目瞭然でわかります。
脳梗塞の治療
身体所見や画像などで脳梗塞と診断されると、早急に治療が始まります。
治療法には次のようなものがあります
・経静脈血栓溶解療法(rt-PA)
静脈に点滴で血栓を溶かす薬剤を投与することで、血流の再開通が期待できる治療法ですが、発症から4.5時間以内に治療を開始しなければなりません。
こちらの記事にrt-PA について詳しく書かれています
・血管内治療
コルク抜きの先のようなもので、血管内に詰まっている血栓を取り除く方法(メルシ―リトリーバー)や細い掃除機のような管を血管内に通し血栓を吸い取る方法(ペナンブラシステム)の2つの方法が、日本では認可されているようです。
この治療法でも発症から8時間以内に治療を開始しなければなりません。
・抗血栓療法
上の二つが血栓そのものに対して根本的に治療するものですが、この抗血栓療法は、これ以上梗塞が広がらないようにする目的で行われます。また再梗塞を防ぐ治療になります。
脳梗塞のタイプによって投与される薬剤が選ばれます。
・アテローム血栓性脳梗塞(動脈硬化が原因)⇒抗血小板薬
・心原性脳塞栓症(心房細動が原因)⇒抗凝固薬
抗凝固薬の代表的なものはワーファリンで、「血液をサラサラにするお薬」と説明されることが多いと思います。
脳梗塞の初期症状を見逃さない!
rt-PAでの治療を行う場合には、発症から4.5時間以内でないとrt-PA を行うことができません。
また他の治療法でも、できるだけ梗塞の範囲を小さくするためには、早急に治療を開始する必要があります。
早く治療を開始することで、後遺症を小さくすることは可能です。
そのためには脳梗塞の初期症状を見逃さず、すぐに医療機関へ行くことが非常に大切です。
ACT FASTでチェック!
脳梗塞をはじめとする脳卒中の初期症状はACT FASTでチェックしましょう
F Face(顔) 笑顔ができますか? 左右の口角がどちらか一方だけ下がっていませんか?
A Arm(腕) 手があがりますか? 力ははいりますか?
S Speech(話し方) ちゃんと話すことができますか? 呂律は回っていますか?
一つでも当てはまるような症状があったら、T Time(時間)を確認してすぐに医療機関へ行きましょう。
ACT FASTについてはこちらの記事にも詳しく書かれています。
症状が消える脳梗塞がある
片方の手足の麻痺や言葉のしゃべりにくさなど、脳梗塞の症状が一時的に出て、その後良くなるということがあります。
これは一過性脳虚血発作、TIA(ティーアイエー)かもしれません。
脳梗塞と同様、血栓が詰まり、血流障害がおこってその先の脳細胞に血液が行き渡らない状態になったのですが、詰まらせていた血栓が流れ再度血流が回復することがあるのです。
症状がよくなって、やれやれと思うかもしれませんが、注意が必要です。
TIAを発症した人の15%〜20%はその後3ヶ月以内に、脳梗塞を発症するということが分かっています。
しかもその半数は2日以内に脳梗塞を発症しています。
いうならば、TIAは次に起こる脳梗塞のリハーサルとも言えます。
一時的な症状で、すぐによくなった場合でも必ず病院での診察を受け、適切な治療をすることで次に起こる脳梗塞の発症を防ぐことのできる可能性が高まります。
全ての脳梗塞でTIAがあるわけではありませんが、もしTIAが疑われたら、体からの警告だと思って、症状がなくなっても、一度医療機関を受診してください。
脳梗塞の症状の出始めにはACT FASTのチェック以外にも、次のようなものがあります
- 言葉が出てこない
- 箸を落としてしまう
- 歩くときに何度も転ぶ
- 視野が欠ける
- よだれが出る
- 片方の手足がしびれる
このような症状が1つ、もしくはいくつか出て、数時間のうちに症状がなくなったらTIAを疑ってください。
脳梗塞の後遺症
脳梗塞の治療は点滴などが2週間をめどに行われます。
ほとんどの病院ではその方の状態に合わせて、理学療法、作業療法、言語療法のリハビリが入院直後から開始されます。
後遺症の有無、重症度については、ダメージを受けた脳内の位置と、脳神経細胞が障害された範囲の大きさで決まります。
脳梗塞の治療が落ち着くと、リハビリテーションが中心になります。
脳梗塞の回復期リハビリテーションについてはこちらの記事にまとめてあります。
まとめ
脳梗塞には
- アテローム血栓性脳梗塞
- ラクナ梗塞
- 心原性脳塞栓症
の3つのタイプがあります。
治療には
- 経静脈血栓溶解療法(rt-PA )
- 血管内治療
- 抗血栓療法
の3つがあります。
脳梗塞の治療は、できるだけ早期に開始することが大切です。
ACT FASTでチェックをして、1つでも当てはまる症状が見られたら早急に医療機関へ行きましょう。
また、一時的に症状が出るけれど、すぐに消失する一過性脳虚血発作、TIAを見逃さないことで、次に起こる脳梗塞を防ぐことができる可能性が高まります。
脳梗塞が起こった位置や梗塞の大きさによっては後遺症が残ることがあります。
点滴などの治療は2週間程度で終了し、後遺症に対してはリハビリテーションが行われます。
脳卒中についてはさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。