
ある日の仕事帰り、サラリーマンの会話です。

どう? 今夜、一杯?



そこで、このままいくと糖尿病まっしぐらだって言われちゃったんだよ。
糖尿病ってよく聞く病気だけれど、いざ自分がなるかもと思って調べてみると怖い病気なんだよ。
ひどくなると、目が見えなくなったり、足を切断しなくちゃいけなくなるらしい。
そんな話を聞くと、このままじゃマズイと思ってさ。

糖尿病ってそんなに怖い病気なのか…
糖尿病とはよく耳にすると思いますが、どんな病気なのかご存知でしょうか?
なぜ怖い病気といわれるのでしょうか?
この記事では糖尿病について、診断、治療や合併症、予防の方法まで分かりやすく解説したいと思います。
もくじ
糖尿病とは?
糖尿病は血液中にブドウ糖が必要以上にある状態が長く続いてしまう病気です。
血液中にあるブドウ糖は血糖と呼ばれます。
ブドウ糖は、白米など炭水化物に含まれる糖質が細かく分解(消化)された、一番小さい単位の糖のことです。
炭水化物を食べると、口の中から胃にかけて消化されブドウ糖となり、腸から吸収されます。
ブドウ糖は血液にのって全身を周り、体を動かすエネルギー源となります。
人間の体の血液の量が4.5Lとすると、血液中には常に約4gのブドウ糖が必要になります。
血糖値という数字で表すと80~90dl/㎎となります。
もしブドウ糖が全身に行きわたり、それでも余る場合は、筋肉や肝臓に取り込まれグリコーゲンとして貯蔵されます。
さらに余っている場合は脂肪細胞に取り込まれ中性脂肪となります。
グリコーゲンも中性脂肪もいざというときのための蓄えなのです。
私たちは食事をするたびに血糖値が上下します。
常に血液中の血糖値が一定になるよう、ホルモンで調整されています。
インスリンの働き
血糖値のコントロールをするホルモンはいくつかありますが、その中で唯一血糖値を下げる働きをするホルモンがインスリンです。
インスリンは食後、血糖値が高くなると、すい臓から分泌されます。
- ブドウ糖を体中の細胞に取り込ませる→細胞が活動するためのエネルギーとなる
- 肝臓や筋肉に余ったブドウ糖を取り込ませグリコーゲンを合成させる
- さらに余ったブドウ糖を中性脂肪にし、それが分解されないように抑制する
このインスリンが働かなくなってしまう場合があります。
それが、肥満になった場合です。
食べすぎて中性脂肪がたまると肥満になります。
肥満になると、インスリンが出ても細胞が糖を取り込まなくなります。
そうすると血液中のブドウ糖は処理されず、血糖が高いままになります。
使われなかった糖は尿として排出されます。
尿に糖が混じるところから「糖尿病」と名付けられました。
実際のところは、糖尿病はインスリンが効かなくなって、血液中の糖分が処理されず高血糖が続いてしまう病気です。
糖尿病の種類
糖尿病はその原因によって1型糖尿病と2型糖尿病の2種類あります。
2型糖尿病…生活習慣病によって起こる
この記事では、2型糖尿病について取り上げています。
糖尿病の診断
糖尿病を見つけるきっかけとなるのは健康診断の血液検査です。
主に指標となるのは、空腹時血糖とHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)の値になります。
空腹時血糖
健康診断の際には前日の夕食以降は食べないように指示されると思います。
それは、お腹がすいているときの血糖値の値を測るためです。
この値を空腹時血糖と言い、糖尿病の診断基準の一つになります。
食事をしていない時にも血糖値が高いということは、常に血糖が血液中に多くあることを示しており糖尿病である可能性が高いと考えられます。(この値だけでは糖尿病と診断できません)
具体的な値としては、空腹時血糖が126㎎/dl以上の場合は糖尿病の可能性があると判断します。
しかし、126㎎/dl以下だったからといって油断はできません。
100㎎/dl以上だった場合も要注意です。
糖尿病はある日突然、血糖値が上がるわけではありません。
日々の生活習慣の積み重ねで、少しずつインスリンの働きが悪くなり血糖値が上昇していきます。
正常値である100㎎/dlを上回っているという時点で、このままではマズイという意識を持った方が良いと思います。
HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)
糖尿病の診断基準として空腹時血糖のほかに、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)という指標があります。
ヘモグロビンは赤血球の中に含まれるたんぱく質の事です。
このヘモグロビンが糖と結合したものがHbA1cであり、この値が高いと血液中のブドウ糖が多い=高血糖ということになります。
HbA1cの正常値は4.6~6.2%とされ、6.5%以上になると糖尿病の可能性があると判断されます。
空腹時血糖とHbA1cとの違い
空腹時血糖 = その日の血糖の量
HbA1c = 過去1~2か月の血糖の量
75g経口ブドウ糖負荷試験
空腹時血糖やHbA1cの値が正常値を超えるようであれば、さらに75g経口ブドウ糖負荷試験という検査を受けます。
この検査は、空腹時に75gのブドウ糖を飲み直後から120分後までの血糖値の変化を見る検査です。
120分後でも血糖値が200㎎/dl以上の場合は糖尿病の可能性ありと判断されます。
実際に糖尿病と診断されるには、空腹時血糖、HbA1c、75gブドウ糖負荷試験などの結果を総合して判断されます。
空腹時血糖 126㎎/dl 以上
HbA1c 6.5%以上
75%ブドウ糖負荷試験 200㎎/dl 以上
(120分後)
随時血糖値 200㎎/dl 以上
この4つの指標のいずれかが、この値以上だった場合再検査をします。
2回めもこの値以上だった場合、糖尿病と診断されます。
糖尿病の診断基準についてはこちらの資料を参考にしました 糖尿病治療ガイド2016-2017
血糖値スパイク
実は、健康診断などで空腹時血糖やHbA1cの値が正常値でも、実は安心できません。
血糖値スパイクという現象を起こしている可能性もあります。
例えば、一気に大量に糖質を取ったとします。
そうすると、血糖値も一気に急上昇します。
それに反応して、すい臓からはインスリンが大量に分泌されます。
そうすると、血糖値が一気に下がります。
血糖値が高すぎるのも問題ですが、低すぎても今度は命に関わるような症状をおこします。
低血糖では次のような症状がおきます。
低血糖になるということは、全身、特に脳に必要なエネルギーが不足してしまうことです。身体の司令塔である脳が働かなくなるということは、全身の働きがすべてストップつまり命が危うくなります。
身体のシステムとして、命に関わるような危機を免れるために、エネルギー摂取の要求が出ます。
つまり、食欲が増進するのです。
この食欲は本能的な欲求からくる食欲なのでドカ食いしてしまいがちです。
そうすると、また血糖値が急上昇し、インスリンが大量に分泌し、血糖値が急降下するという繰り返しになります。
これを日常的に繰り返していると、インスリンを分泌するすい臓が疲れてしまい、インスリンを分泌することが難しくなってしまいます。
血糖値スパイクを繰り返していると、すい臓に負担がかかりインスリンが分泌されず、常に高血糖が続いてしまう状態、つまり糖尿病になってしまう可能性があるのです。
ここでインスリンの働きを思い出してみましょう。
- ブドウ糖を体中の細胞に取り込ませる→細胞が活動するためのエネルギーとなる
- 肝臓や筋肉にあまったブドウ糖を取り込ませグリコーゲンを合成させる
- さらに余ったブドウ糖を中性脂肪にし、それが分解されないように抑制する
すい臓が疲れ、インスリンを分泌できなくなるとこれらの働きができなくなります。
つまり、ご飯を食べても、体にエネルギーを取り込むことが難しくなります。
でも体はエネルギーが必要なため、蓄えていたグリコーゲンや中性脂肪を分解してエネルギーにします。
結果、身体は痩せていきます。
糖尿病は太った人、肥満の人がなる病気というイメージが強いかもしれませんが、痩せている人でも糖尿病になることもあります。
自分は痩せているから、糖尿病とは無関係と安心してはいけません。
糖尿病の症状
のどが渇く
血糖値が高くなると、血液中の糖分を薄めようとするために、のどが渇きます。
トイレが近くなる
のどが渇いて、水分を大量に飲む影響も一つあります。
もう一つは、エネルギーを得るためにグリコーゲンを分解する時、ブドウ糖と共に水が発生します。
その水が尿として排泄されるため、トイレが近くなるという症状が出ます。
体重減少
食べたものをエネルギーとして取り込むことができないため、蓄えてあったグリコーゲンや中性脂肪が分解されます。
そのため、体重は減りやせていきます。
糖尿病になるとどうなる?
血糖値が高いということは、血液中にブドウ糖が多く含まれるということです。
サラサラの水分に大量の砂糖を溶かすと、ドロドロっと流れにくくなりますよね。
それと同じことが血管を流れる血液で起こっている思うとイメージがしやすいでしょうか。
糖尿病でインスリンが効かなくなってしまうと、中性脂肪や悪玉コレステロールなどの脂質も血液中に増えます。
ブドウ糖と脂質が合わさって、さらに血液ドロドロに拍車がかかります。
そのドロドロの血液は血管はを通じて全身をめぐっています。
高血糖のまま放置しておくと、身体のあちこちに異常が出てきてしまいます。
動脈硬化を進行させる
動脈硬化は、その名の通り動脈が硬くなる症状のことです。
これは加齢に伴って誰にでも起こることです。
しかし糖尿病で、血液がドロドロになると、血管壁にコレステロールが溜まりやすくなり、そこで炎症を起こします。
炎症の傷跡を治したかさぶたが血管を詰まらせてしまうことがあります。
動脈硬化がさらに進んで、血管壁が硬く、しなやかさを失います。
また、動脈硬化に高血圧が加わると、血管が破れて出血する脳出血のリスクが高くなります。
動脈硬化についてはこちらに詳しくまとめました
脳出血を原因としておこる脳出血についてはこちらをご覧ください。
糖尿病の合併症
細い血管が詰まった場合
糖尿病の3大合併症
- 手足の先がしびれる糖尿病性神経障害
- 白内障を引き起こす糖尿病網膜症
- 週2~3回の人工透析が必要となる糖尿病腎症
太い血管が詰まった場合
- 脳卒中…脳出血、脳梗塞を起こし、重篤な後遺症、寝たきり、最悪の場合は死亡することもある
- 心筋梗塞…突然心臓がけいれんして血流が止まり、最悪の場合は死亡することもある。
- 末梢動脈性疾患…足の末梢血管が詰まり、しびれたり、歩くときに痛みが出る。壊疽して切断することもある。
脳卒中についての記事はこちらにまとめました
認知症
まだ、糖尿病が認知症の誘因の一つとはっきりと解明されているわけではありませんが、認知症の患者さんは糖尿病を合併していることも多いですし、実際にそれを示す研究結果も出てきています。
認知症に関する記事についてはこちらの記事にまとめました。
糖尿病の治療
糖尿病の治療は、不足しているインスリンを補うインスリン治療と生活習慣の改善を並行して行います。
インスリン治療
糖尿病治療の最終手段がインスリン治療です。
インスリンを補うことによって血糖コントロールを行います。
口から薬を服用する方法と、食事の前に自分でインスリンを注射する方法があります。
血糖値は高いのもよくありませんが、インスリンが効きすぎて低血糖になってしまうのも危険です。
糖尿病の専門医や、主治医の指導をよく聞いて、指導された通りに実施します。
生活習慣の改善
インスリン治療などの薬は、糖尿病を治しているわけではありません。
薬を飲んでいるからと言って、安心していてはいけません。
糖尿病はもともと、日々の生活習慣、とくに食習慣の積み重ねが原因で起こった病気です。
インスリン治療で血糖をコントロールしながら、食事内容や食べ方などに気をつけ、適度な運動をすることが重要です。
インスリン治療をしている方は、むやみに食事量を減らしたり、運動量が多すぎたりする場合は低血糖を起こす危険もありますので、主治医や看護師、管理栄養士の指導を受けて実施してください。

どうしたらいいんだろう?
糖尿病を予防するには?
糖尿病を予防するには、血糖値が上がりすぎず、下がりすぎないような生活習慣を心掛けることが第一です。
- 日頃から食べすぎないようにする
- 血糖値が上がりやすい甘いお菓子、ジュースなどは控える
- 煙草をやめる
- 適度な運動をする
- しっかり睡眠をとる
食事に関しては糖質制限も有効な方法の一つです。
まとめ
- 糖尿病とは、すい臓から分泌されるインスリンが効かなくなったり、すい臓そのものの異常によってインスリンが分泌されなくなることによって、血液中の糖を処理できず高血糖の状態が長く続くことによって起こる病気です。
- 糖尿病は、空腹時血糖、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)、75g経口ブドウ糖負荷試験などの検査を行うことで診断されます。
- 血液検査のデータでは正常値でも、血糖値の急上昇・急下降を繰り返す血糖値スパイクを起こしていることがあります。血糖値スパイクを繰り返すことによって後に糖尿病につながる恐れがあります。
- 糖尿病の症状としては、のどが渇く、トイレが近くなる、体重が減るなどがあります。
- 糖尿病を放置すると、動脈硬化を進行させ、さらに3大合併症や脳卒中、心筋梗塞、末梢動脈性疾患を引き起こします。さらには認知症のリスク要因の一つにも挙げられるようになってきました。
- 糖尿病の治療はインスリン療法と生活習慣の改善を同時進行に行います。
- 糖尿病を予防するには、日頃の生活習慣、とくに食事面、運動面に気をつけることが第一です。
糖尿病はなぜ怖いのか?
糖尿病は血液の病気ともいえます。
血液は全身をめぐります。
放置しておくと、身体のあちこちで合併症が起こり命の危険にさらされます。
確かに合併症も怖いです。
でも本当に怖いのは、知らず知らずのうちに血糖値が高くなるような習慣をしていた、ということではないでしょうか?

でもこうして、糖尿病の怖さを知ることができたのだから、
自分の生活習慣を見直してみよう。
まずは、一駅手前で降りて、
会社まで歩くことからはじめてみようかな。
一度に全ての生活習慣を変えることは難しいと思います。
まずはできるところからやってみる。
そして、できるだけ長く継続することが大切です。