
嚥下障害があって、一生懸命食べるリハビリを行って何とか食べられるようになっても、元気な頃のように何でも食べられるというわけにはいかないところがあります。
でも、大好きだったものは何とか食べさせてあげたい、と思うのは家族の本音なのではないか、と思います。
例えば、これからの季節、旬を迎えるサンマ。
嚥下障害の方にとっては、魚は食べにくい食材の一つです。
何とかして食べる方法はないか、言語聴覚士として、嚥下障害の方にサンマを食べて頂ける方法を考えてみました。
もくじ
なぜサンマの塩焼きが食べにくいのか?
サンマの美味しい食べ方として1番に上げられるのは、
塩焼きでしょう。
でも、このサンマの塩焼きは嚥下障害の方にとっては食べにくい場合があるのです。
それには4つ理由が考えられます。
身はパサパサする
サンマは比較的脂分の多い魚ですが、塩焼きにすると余分な脂は落ちて、身はパサパサした食感になります。
パサパサした食感のものは嚥下障害の方にとっては、口の中でまとまりにくく、歯と歯茎の間や、舌の下に残りやすかったり、喉に引っかかったりして食べにくいのです。
醤油、大根おろしの水分でむせる
サンマの塩焼きに醤油と大根おろしを添えるのが定番ですが、特に大根おろしはとても水分が多いです。水分はのどを通過する速度が速いので、サンマの身の部分を噛んでいる間に、大根おろしの水分だけ、のどを通過してしまい、むせてしまうことがあります。
すだちの酸っぱさでむせる
すだちを絞って食べる場合には、その酸味でむせやすくなります。
骨がある
サンマはものすごく細かい骨があります。健常者であれば、食べてしまっても問題ないくらいの細い骨ですが、嚥下障害の方の場合は口の中でサンマの身と骨を上手くまとめられないことがあり、口の中に残ってしまったり、喉に引っかかってしまう可能性があります。
また、口の中で骨があることに気がついても、骨だけうまく口の外に出すことが難しくなります。さらにそのまま飲みこんでしまうと、骨だけのどに引っかかってしまうこともあります。
サンマは栄養面からみても食べたい食材
でもサンマには高齢者に是非取って頂きたい栄養素がたくさん詰まっています。
カロリーが高い
1匹まるまる食べれば約300キロカロリー取ることが出来ます。
実際には皮や内臓の部分を取り除いて食べることになるので、もう少しカロリーは少なくなると思いますが、それでも一食で十分な量のカロリーを取ることができます。
病院で高齢者の嚥下障害の方に配食される食事の約1食分のカロリーがサンマ1匹でとれることになります。
食べることが難しく、なかなかカロリーを摂取できない嚥下障害の方にとっては、サンマを食べることで効率的にカロリーをとることが出来るのです。
脳の働きをよくするDHA
DHAは脳神経細胞に働きかけて、脳を活性化する効果があります。
サンマにはこのDHAが豊富に含まれています。
認知症予防、認知症を進行させないためにも摂取しておきたい栄養素です。
血液をサラサラにするEPA
EPAは血液をサラサラにする働きがあり、摂取することで、動脈硬化、高血圧、糖尿病を予防することができます。
脳梗塞再発防止のためにもEPAは必要な栄養素です。
貧血予防にビタミンB12
ビタミンB12は赤血球を作るのに必要なビタミンです。
摂取することで貧血予防ができます。
皮膚のトラブルにはビタミンA
ビタミンAはコラーゲンを増やし、皮膚のトラブルによいと言われています。
健常者にとっては美肌効果が期待できますが、脳卒中後の高齢者の場合、ベッドに横になる時間が長いと褥瘡(じょくそう=床ずれ)ができやすくなるのですが、ビタミンAを取ることによって、褥瘡を防ぐことができます。
その他にも、ナイアシン、タウリン、カルシウム、ビタミンDなど、豊富な栄養素が含まれています。
サンマの食べ方の提案
缶詰で食べる
お手軽なのは、サンマの缶詰を利用することです。
サンマの栄養素DHAやEPAは缶詰でも変わらず含まれています。
骨も柔らかくなっているので、そのまま食べることも可能ですが、気になるのなら背骨だけは取り除いたほうが食べやすいかもしれません。
歯や歯茎でかんだり、舌でおしつぶして食べている方は、身をほぐして食べてください。
ペースト状の食事をされている方は、缶詰を煮汁ごとミキサーにかけると食べやすいと思います。
塩分濃度が若干高めになるので、血圧の高い方や塩分制限のある方は頻回に食べないようにしてくださいね。
蒲焼き、煮付けで食べる
調理が可能であれば、サンマを蒲焼きや煮付けにして食べることをおすすめします。
とろりとしたタレや煮汁があることで、身のパサパサ感が少ししっとりするので、口の中でまとまりやすく、飲みこみやすいと思います。
骨には十分注意してくださいね。
でも、やっぱり塩焼きで食べたい!
でも、サンマといえば塩焼き。
どうしても塩焼きで食べたい場合は、こんな風にしてみてはいかがでしょうか?
少し強めに絞った大根おろしと、お醤油とすだちの代わりにゼラチンで作った、ポン酢のジュレ(写真右奥)を一緒に食べる方法です。
ゼラチンは、冷やすと固まり、ちょうど体温で溶け始めます。
ゼラチンゼリーには食べ物をひとまとまりにしてくれる作用があり、この作用を利用して、一緒に食べることで、サンマのパサつき感を抑えて、口の中に身が残りにくくなります。
ポン酢ジュレは少し薄目に作り、頂くときにはサンマにちょっと多めにのせて下さい。
ポン酢ジュレの作り方
ポン酢(市販のもの) | 50cc |
水 | 50cc |
ゼラチン | 5g |
- 水を火にかけ、沸騰させる
- 火を止めてゼラチンを煮溶かす
- ポン酢を入れてまぜ、冷やし固める
☆このレシピでは嚥下障害の高齢者の事を考え、少し薄めの味付けになります。使うポン酢によって味の濃さが変わると思いますので、ポン酢と水の割合は調整してください。
☆冷やすととても固いゼリーになりますが、熱を加えるとすぐ柔らかくなります。熱々のサンマの上に乗せるとポン酢が液状に戻ってしまい、その水分でむせる可能性もあります。サンマはある程度冷ましてからポン酢ジュレをのせてください。もしくは、とろみ剤を使ってポン酢にとろみをつける方法では、熱いものでも液状に戻ることはありません。
注意! ここでご紹介したサンマの食べ方は、すべての人が安全に食べて頂ける食べ方ではありません。その方の摂食嚥下の状態を見極めて、食べられるかどうかを判断してください。 担当の看護師、言語聴覚士がおられるのであれば、一度ご相談されるのが確実かと思います。 |
まとめ
ご病気になって、好きなこともやりたいことも出来なくなってしまい、楽しみは食べることだけ、という方も多いのではないかと思います。
好きなものを食べることで喜びを感じ、また、季節を感じることもできます。
食べることの障害である嚥下障害の方でも、食べる楽しみを少しでも感じてもらえたらと思い、この記事を作成してみました。
サンマは嚥下障害の方にとっては食べにくい食べ物ではありますが、栄養面からはぜひ食べて頂きたい食べ物でもあります。
サンマの食べ方の提案がお役に立てば、幸いです。