


テレビのボリュームを
ものすごく大きくしているの。
耳が遠くなったみたいで。
補聴器、買ったら?っていうけれど、
本人は嫌がるんだよね。
年を取ると耳が遠くなる方は少なからずいます。
耳が遠いと、本人だけではなく、一緒に暮らす家族も困ることがあります。
良かれと思って、補聴器をプレゼントしても、本人が嫌がって補聴器を使わないということはありませんか?
せっかく高い補聴器を買ったのに、もったいないですよね。
なぜ、こんなことになってしまうのでしょうか?
それは、普通に聞こえる私たちが、老人性難聴の聞こえ方を知らないから。
そして、補聴器というものがどういうものなのかを知らないから。
この記事では、家族の耳の聞こえに悩んでいる方に次の事をお伝えしています。
- 老人性難聴とは?
- なぜ補聴器を嫌がるのか?
- 補聴器の購入法
- 難聴者への接し方
- 難聴にならないために
もくじ
老人性難聴について
老人性難聴とは?
加齢に伴って聴力が低下するのが老人性難聴です。
聴力が低下する原因が他になく、加齢以外には原因が考えられない場合、老人性難聴と診断されます。
老人性難聴の特徴は
- 聴力検査の結果、両耳とも同じような聴力低下を示す
- 周波数の高い音から聞こえなくなる
- リクルートメント現象 陽性
の3つがあります。
小さい音は聞こえないが、大きな音は通常聞こえているよりも大きく聞こえる現象のことをいいます。
補聴器というのは、小さい音を大きくする役割しか果たしません。
リクルートメント現象が陽性だと、補聴器で音を大きくしたことによって、逆にうるさく感じられることもあるのです。
この現象が、補聴器を使うことを嫌がる原因の一つにも考えられます。(後述します。)
老人性難聴の聞こえ方
老人性難聴の特徴の2番目、周波数の高い音から聞こえなくなるというのは、どういうことなのでしょうか?
日本語の音の中で周波数の高い音というのは、子音にあたります。
子音というのは、日本語の音の中でいうと、かな文字ひとつの音を子音と母音に分解した時の始めの部分になります。
「さ」
/sa/
/s /子音 + /a/ 母音
子音の部分が聞き取りにくいということは、音の聞き分けがしにくくなるということです。
極端に言うと、母音が共通な「さ」、「か」、「た」、「ぱ」などの音の聞き分けがしにくくなるということです。
実際に老人性難聴の方はこんな風に聞こえているようです。
このような特徴があるために老人性難聴の方は、
音が小さくしか聞こえないのではなくて、ことばがはっきりと聞こえないのです。
逆に、ぼそぼそ声は小さくても聞き取れることがあります。
また、自分が良く知っていることについては、ニュアンスで理解されることもあります。
よく、憎まれ口で、「悪口だけは聞こえている」なんていうこともあるかもしれませんが、聞こえないと思って、低い声でぼそぼそと悪口を言うと実は聞こえていることもあるので、注意が必要ですよ。
老人性難聴の治療
老人性難聴の治療法は現在のところありません。
補聴器で聞こえを補うことが唯一の対処法になります。
しかし、補聴器をつけたからといって、以前と同じような聞こえが確保できるわけではありません。
そして、難聴がどんどん進んで、ことばを聞き分けることが難しくなってしまうと、補聴器でいくら音を大きくしてもことばの聞き取りは難しくなります。
できるだけ聴力が残っているうちに、補聴器をつけて聞こえを補うことが大切です。
2017年7月にロンドンで行われたアルツハイマー国際会議(AAIC)において、認知症の9つのリスク要因が示されました。
その9つの中で難聴もリスク要因に含まれていました。
詳しくはこちらの記事をお読みください。
つまり、
↓
人と話をすることが億劫となる
↓
人とのつながりのチャンスが減る
↓
脳への刺激が減る
↓
脳の機能がだんだん衰えていく
=認知症になりやすくなる
ということなのです。
なぜ補聴器を嫌がるのか?
理由1 「聞こえない」という自覚がない
老人性難聴は少しずつ聴力が低下していきます。
上で見た通り、ことばが聞き取りにくくなるのであって、音が全く聞こえないわけではないのです。
突然、聞こえなくなる訳ではないので、はじめは本人の自覚がありません。
そして、日常生活の中で本人は意外と不便に感じていないことが多いようです。
自覚がないと、補聴器が必要とは思わないのだと思います。
理由2 補聴器の金額が高い
補聴器はとても高いです。
メーカーやタイプによりますが、片耳だけでも最低5万円はします。
自分で購入しようと思うと、とても大きい負担になってしまいますし、家族に買ってもらうとしても気が引けてしまうような金額です。
ましてや、自分には必要がないと思っている人にとって容易に手が出せるような金額ではありません。
理由3 補聴器をつけてもうるさいだけで効果がないと思っている
私たちの耳は、外界のさまざまな音のなかから必要な音だけを選択して聞くことができます。
しかし補聴器は外界のすべての音を大きく聞かせてしまいます。
人の声だけではなく、環境音も全て大きな音量となって耳に届いてしまうのです。
また老人性難聴の特徴の1つである、リクルートメント現象陽性も影響します。
補聴器で音を大きくすると、通常聞こえているよりも大きく聞こえてしまうので、とてもうるさく感じられることがあります。
常にうるさい音が聞こえてくるため、補聴器をつけることが苦痛となってしまいます。
理由4 老いを認めることになる
私たちは皆、自分が年を取ることを認めたくないという気持ちがあると思います。
年を取って耳が遠くなった人が補聴器を使うということは、「年を取ってしまった自分」を受け容れることになります。
老人性難聴は早い人であれば40代から聴力の低下がみられる場合があります。
若ければ若いほど、補聴器を使うということに抵抗があるかもしれません。
補聴器の購入方法
補聴器を購入するときには、間違っても通信販売などの安価なものを買わないようにしてください。
補聴器は買ったらそのまま使えるというものではありません。
その人の聴力や生活に合わせた補聴器選びが必要ですし、使い始めた後でも聞こえの調整をする必要があります。
安易に合わない補聴器を試してしまうと、「補聴器はうるさいだけ」というイメージを植え付けてしまい、その後、補聴器を使うことに抵抗を感じてしまう危険があります。
手間と時間がかかってしまいますが、次のような手順で購入されることをオススメします。
補聴器による効果があるかどうか診断してもらう
自分の聴力や目的に合った補聴器を選ぶ。
(購入するまえにお試しで使うことができればなおよい)
(訪問してくれる業者であればなおよい)
補聴器の購入についてはこちらのページがとても分かりやすく説明されています。
(一社)日本補聴器販売店協会
・障害者総合支援法に基づく補装具費支援制度
・医療費控除
・補聴器購入助成制度(各自治体による)
これらの制度を利用することで、補聴器を安く購入できる場合があります。
補聴器を購入する際には一度販売店に相談してみましょう。
いずれも医師の診断が必要となります。
補助金制度についての情報はこちらの記事に詳しく書かれています。
補聴器についての医療費控除、補助金、保険について
難聴者への接し方
老人性難聴者の世界を想像する
例えば、ことばの分からない国で5~6人でテーブルを囲んで食事をするところを想像してみてください。
自分一人だけ会話の内容が分からないとき、あなたはどんなふうに感じるでしょうか?
例えば、自分を元気づけてくれるような音楽や、自然の中の鳥や虫の音が聞こえない世界を想像してみてください。
例えば、相手の話が聞き取れなくて、聞き返したとき、相手ががっかりした顔をされたらどんなふうに感じるか、想像してみてください。
例えば、以前はちゃんと聞こえていたのに、だんだん聞こえなくなってきたと気づいたとき、どんなふうに感じるか想像してみてください。
老人性難聴の世界はとても孤独で不安なものになると思いませんか?
先ほど難聴が認知症の原因になるとお伝えしました。
音が聞こえにくくなり人とのコミュニケーションを避ける影響だけではなく、それに伴うその孤独感や不安、ストレスなども誘因となり、認知症を進行させてしまうことがあるのです。
家族の接し方
老人性難聴には補聴器で聞こえを補うしか対処方法はありません。
できるだけ早目に補聴器を使うことが大切ですが、様々な理由で補聴器を嫌がり、使うことを拒否する場合もあるでしょう。
本人が嫌がるのに無理して補聴器をすすめるのも、よくありません。
また、本人がその気になって補聴器をつけるつもりでも、検査の結果、補聴器ではそれほど効果がみられないということもあるかもしれません。
また、例え本人に合わせて補聴器を作ったとしても、元のように聞こえているわけではありません。
補聴器にも限界があります。
耳の遠い家族へはやはり、ある程度配慮が必要だと思ってください。
どんな風に聞こえているのかを知ってください。
聞こえない方の世界を想像してあげてください。
その上で、こんな風にコミュニケーションをするとよいと思います。
話し方の工夫
耳が遠い高齢者に対して、話す側が少し配慮することでコミュニケーションがスムーズにいくこともあります。
真正面に立ち、相手に口元を見せながら はっきり、くっきり、ゆっくりと話してください。
あまり大きな声で話す必要はありません。
音だけではなく、口の形を見せることで伝わりやすくなると思います。
高い声よりは少し落ち着いた声のほうが聞こえやすいようです。
また、1対1の会話は分かりやすいですが、輪になって話すようなときは一人だけ話題についていけないことがあります。
何のことについて話しているのか、少し個別に伝えてあげるだけでも孤独感が和らぐのではないかと思います。
私の祖母は100歳まで生きましたが、晩年は耳が遠くて、元々話好きだったのですが、だんだん話したがらなくなり、とても寂しそうな表情を時々していました。
離れて住んでいたので、なかなか会うことができませんでしたが、「はっきり、くっきり、ゆっくり、口元を見せながら話す」ことで、ちゃんと会話が成立し、一緒に暮らしている伯父、伯母がとても驚いていたのを覚えています。
そのときの祖母の嬉しそうな顔は今でも忘れられません。
手話はおぼえたほうがいいの?
聴覚障碍者が使う手段として手話がありますが、手話で実際に話すとなると、本人も家族も手話を1から覚えなくてはなりません。
高齢者にとって新しい言語手段として手話を獲得することはかなり厳しいと思います。
お互いにとって意味の通じるジェスチャーは利用することは有効だと思います。
難聴を防ぐ方法
ここまで、耳が聞こえにくくなった方への対処法を中心にお伝えしてきました。
でもできれば、いつまでも聞こえを維持したいもの。
最後に、難聴を防ぐ方法について2つお伝えしたいと思います。
動脈硬化を防いで耳の血流をよくする
耳の奥にはカタツムリの殻のような「蝸牛(かぎゅう)」と呼ばれる部分があり、その中の有毛細胞という細胞が音の振動を電気信号に変えて脳に伝える働きをします。
らせん状に巻いている蝸牛を引き延ばすと約35㎜。
そんな小さい中に入っている有毛細胞にも血液が行き届いています。
動脈硬化になってしまうと、その細い血管に血液が行き届きにくくなり、有毛細胞が壊死してしまい難聴を引き起こしやすくなります。
▶動脈硬化についてはこちらの記事をお読みください
大きな音を避ける
常に大きな音に曝される環境では、難聴になりやすいと言われます。
また、ヘッドホンなどをつかって大音量で聞くことも避けた方がよいです。
まとめ
- 老人性難聴とは、加齢が原因で起こる難聴です。
- 老人性難聴の聞こえ方の特徴を知ると、なぜ補聴器を嫌がるのかが理解できると思います。
- 補聴器は必ず補聴器専門店で相談をしながら買うことをオススメします。
- 補聴器を使ったとしても、元の通りに聞こえるわけではありません。難聴者への接し方の配慮が必要です。
- 難聴者へは真正面から、大きく、はっきり、くっきり話すようにすると、相手に伝わりやすくなります。
難聴というと、全く音が聞こえない人と誤解されることがあるようです。
老人性難聴の方は、音は聞こえています。
ことばとして聞き取りにくくなっている、ということを理解すると、「老人の地獄耳」も納得がいくのではないでしょうか。