
2018年1月19日に小室哲哉氏が記者会見を行い、引退を発表しました。
小室さんの奥様KEIKOさんはくも膜下出血で倒れ、現在病気療養中ですが、会見のなかでKEIKOさんの現在の病状も語られました。
その記者会見で語られた内容からKEIKOさんが今どのような状態なのか、実際にクモ膜下出血後のリハビリを担当したこともある言語聴覚士のつばめが推測してみたいと思います。
また、この会見は、どうしても不倫釈明や小室さんの引退という話題に注目が集まりがちですが、実は小室さんは現在の介護やストレスにまつわる問題にも触れています。
小室さんが伝えたかったことというのは、同じくも膜下出血の後遺症と共に生きている人、それを介護する家族にとっても大きな問題だと思います。
会見の中で小室さんが本当に伝えたかったことについても考えていきたいと思います。
KEIKOさんのプロフィール
1995年 globeのヴォーカルとしてデビュー
2002年 小室哲哉氏と結婚
2011年 自宅にて首の後ろ側に激痛を訴え、都内病院に救急搬送。くも膜下出血と診断。約5時間にわたる手術を受ける。
以後、病気療養中とされ、表舞台には姿を見せていない。
参考:Wikipedia
KEIKOさんが発症したくも膜下出血についてはこちらの記事に詳しく書かれています。
KEIKOさんの現在の様子
2018年1月19日に小室哲哉氏が会見した内容は、こちらのニュース記事に全文掲載されました。
そこで語られた中から、KEIKOさんの現在の様子が分かる部分を抜き出して、考えてみたいと思います。
身体的な後遺症はなかったのですが、脳の方にちょっと障害が残りました。
引用元:dot.asahi.com
KEIKOさんはくも膜下出血後に高次脳機能障害という後遺症が残りました。
体を動かす機能など基本的な脳の働きを一次機能というのに対して、その他の複雑な脳の働きを高次機能といいます。
複雑な脳の働きといっても、私たちが普段の生活の中で当たり前に出来ていることです。
高次脳機能障害についてはこちらの記事に分かりやすく説明してあります。
逆に言うと、高次脳機能障害は私たちが当たり前にできることが出来なくなってしまう障害のことです。
記憶障害
KEIKOさんの場合は、以前から記憶障害があると報じられていました。
同じglobeのメンバーだったマーク・パンサーさんはKEIKOさんの様子について、「普通にしゃべってるし、普通に歩けている、でも新曲が歌えない。記憶がないから」と言っています。
参考:logmi.jp
この場合の記憶障害は、くも膜下出血になる前のことは覚えているけれど、病気になった後のことは新しく覚えることができない前向性健忘と思われます。
前向性健忘の場合、ご主人である小室さんのことや、同じメンバーだったマークさんのこと、自分が歌手でglobeとして活動していたことは覚えていても、病気の後に新しく出会った人や、出来事、何か新しいことを覚えることが難しくなります。
別の言い方をすると、思い出が出来ないのです。
注意障害
・残念なことに音楽に興味がなくなってしまって、・・・(略)
・電話や会話がだんだん1時間から10分、5分、3分みたいな間しかもたなくなっています。
引用元:dot.asahi.com
など、以前興味を持っていた音楽への意慾が低下していたり、人との会話も集中力が続かないなど、注意障害があるようです。
ことばはしゃべれるけれど・・・
・どのくらい理解してくれているのか。過去、何回か時々、正常になる会話ができる時が年に数回あります。その時に「私、普通じゃないよね」って言ってくれる。
・小学4年生くらいの漢字のドリルとかが楽しいみたいです。
・簡単な単語でこういうことだと、「ごめんね」とか、「わかったよ」ということであったりとか。「やだな」とか、ほんとに短い言葉のやりとりを昨日までしていました。
引用元:dot.asahi.com
KEIKOさんは言語障害があるのか、ということについては、小室氏の会見の内容だけではなかなか判断がつきません。
実際にお話しされているところを見なければ判断することは難しいです。
ただ、小室さんの言葉から、日によって、いやその時々でしゃべれたり、全くしゃべれなかったりするのではないかと思います。
KEIKOさんが小室さんの話を理解しているのかどうか…それは本人にしか分かりません。
そして理解できたかもしれないけれど、覚えていないかもしれません。
大人(の女性)としての会話が成立しないのは、仕方のないことかもしれません。
KEIKOさんは毎日こんなツイートを残していました。
お休みなさい💤
— k’s tenki (@Ks_tenki) 2015年9月17日
パソコンを使ってなのか、スマートフォンを使ってなのかは明らかにされていませんが、このようにたった6文字+絵文字でも高次脳機能障害の方にとってはツイートを作成するのが難しいこともあります。
これはKEIKOさんの公式のアカウントのようですが、実際に送信しているのがKEIKOさんだということは明らかにはなっていません。
介護する側の苦悩
私は言語聴覚士としてこれまで、くも膜下出血後の高次脳機能障害の患者さまのリハビリを何人も担当してきました。
同じくも膜下出血でも一人として同じ後遺症の方はいません。
それぞれ全く違う高次脳機能障害を見せます。
でも、今まで出会ってきた患者を通じて共通するのは、高次脳機能障害の方というのは、専門家である私が言うのも変ですが、「分からない」障害だということです。
KEIKOさんのように身体的には大丈夫な方もいらっしゃるので、外見から見ても「分からない」障害ですし、実際接してみても、「分からない」ことだらけです。
何をしたいのか「わからない」。
何を言っているのか「わからない」。
こちらの話していることが「わからない」。
それも時と場合によって変動します。
きっと一般の方からは全く想像もつかない障害だと思います。
小室さんにとっては、「わからない」人を相手にする介護だったのだと推測します。
過去にはglobeとしてマーク・パンサーさんを含め3人で、素晴らしい楽曲でパフォーマンスを見せてくれたという輝かしい過去があります。
きっと、そういう輝きを取り戻したい、そう思って小室さんもはじめは介護に一生懸命だったのだと思います。
でもKEIKOさん本人は音楽への興味を全く失ってしまっていた…小室さんとってそれはとても、とても大きなショックだったと思います。
小室さん自身も、C型肝炎、突発性難聴と体調を崩される日々が続きます。
体を壊すと、気弱になり、自分の事で手一杯になって、KEIKOさんのことを優しく思いやることが出来なくなったのだろうと思います。
また、それが罪悪感となり、ストレスになったのではないか、と推測します。
会見の中で小室さんは、「女性というよりは女の子」というようにKEIKOさんのことを表現していました。
それを聞いて子育てと同じじゃないか、と思った方もいるかもしれません。
でも子育ては、子どもが成長すれば終わります。
子どもと一緒に夢を描くこともできます。
くも膜下出血発症から7年が経ちます。
KEIKOさんは今45歳。
後遺症を持ちながら、これからの人生をどう生きていくのでしょうか?
おそらく、後遺症は良くなることはあっても、完全に治ることは難しいと思います。
介護はゴールが見えません。
いつ終わるのか分かりません。
頑張れば、頑張るほど、しんどくなります。
その日その日を生きる、暮らすだけでもめいっぱいなのです。
愛する家族をサポートしたい、けれど、愛情だけでは続かないのが介護です。
小室さん、KEIKOさんご夫妻のような問題を抱えていらっしゃる夫婦、親子はものすごくたくさんいるのではないでしょうか。
こちらは、くも膜下出血後の後遺症で高次脳機能障害になった父を実際に介護している記者さんの記事です。
小室氏が本当に伝えたかったこと
この小室氏引退会見については、連日テレビに取り上げられているのですが、小室氏は会見の最後に付け加えるように以下のように言っています。
僕たった一人の人間の言動などぜんぜん、日本であったり、社会が動くとはまったく思ってませんが、先ほども言いましたように、高齢化社会に向けて、介護の大変さであったりとか、それから社会のこの時代のストレスであったりだとか、少しずつですけれど、この 10 年でふれてきているのかなと思っているので、こういったことを発信することで、この日本を何かいい方向に、少しでもみなさんが幸せになる方向に動いてくれたらいいなと、心から思っております。微力ですが、少し何か、響けばいいなと思っております。ありがとうございます。
KEIKOさんのような高次脳機能障害という世間一般にはあまり知られていない障害の事、それを介護するということ、その労力の大きさと苦悩を、小室さんは勇気をもって伝えてくださったのではないかと思います。
余りにも赤裸々にKEIKOさんの現状、小室さん自身の現状をお話ししてくださっていて、はじめは聞いていて「なにもそこまで言わなくても」という気持ちになりました。
同じように高次脳機能障害という後遺症と一緒に生きている人、それを介護する人はものすごくたくさんいます。
その方たちも含めて、「幸せになる方向に動いてくれたら」という強い思いがあるからこそ、このように何もかもお話ししたのではないかと思うのです。
そのためには、高次脳機能障害についてもっと皆さんに知ってもらうこと、そして社会的なサポートを充実させることが必要です。
さらには、高次脳機能障害だけじゃなくてどんな障害を持っている方でも、介護している家族と共に最低限安心して普通に暮らせるような社会になることではないかと思います。
その人にとっての普通の暮らしの積み重ねの先に、幸せがあったり、改善があったり、障害をもちながらもその人らしく生きられたりするのではないかと思うのです。
今回の小室さんの会見は、皆さんに高次脳機能障害のことを知ってもらうとてもいい機会だったと思うのですが、どうしても、小室さんの引退、不倫騒動ばかりに焦点が集まってしまっているのが残念でなりません。
まとめ
・7年前にくも膜下出血を発症したKEIKOさんは、今も高次脳機能障害という後遺症が残っています。
・高次脳機能障害はとても「分かりにくい」障害。それを介護する人の労力と苦悩は計り知れません。
・小室さんの会見の最後の会話には、どんな人も幸せになる方向へ動いてくれたら、という強い思いが感じられます。
私つばめは、TMネットワーク時代から、小室さんの音楽に親しんできたので、小室さんが引退されるというのはとても寂しい気がしますが、今後はプレッシャーから解放されて、KEIKOさんと、純粋に音楽を楽しんでいってほしいと切に願います。