高次脳機能障害を分かりやすく説明すると?摂食・嚥下障害への影響は?認知症との区別は?

      2018/01/07

sponsored link

 

脳卒中後の後遺症にはたくさんの障害がありますが、その中でも分かりにくいのが高次脳機能障害ではないでしょうか?

医師や医療スタッフから、いきなり「高次脳機能障害」と説明されても、具体的にどういう障害なのかよくわからないのではないかと思います。

私が言語聴覚士になるための勉強をしている中で、一番理解するのが難しかったのがこの「高次脳機能障害」だったので、一般の方が理解するのはなおさら難しいのではないかと思います。

 

私たち人間は、実は常に当たり前のように高次機能を使って生活しています。

逆に言うと、この機能が障害されるととても生きにくくなります。

この記事では、高次脳機能障害についてできる限り分かりやすく説明するとともに、摂食・嚥下障害に影響を与えるような症状や認知症との区別についてもお伝えします。

高次脳機能障害とは?

今からあなたは歩いてスーパーにリンゴを買いに行こうと思います。

 

あなたはスーパーに行くために、足を動かして歩くことが出来ます。

手を動かすことが出来ます。

目で回りをみる視力もありますし、音を聞く聴力もあります。

そういうことが出来るとします。

(障害などがあって出来ない方はこの場合は除きます。)

でも、足が動いたり、手が動いたりするだけで、スーパーまでリンゴを買いに行けるでしょうか?

 

実際に、歩いてスーパーにリンゴを買いに行くときには、あなたの頭の中で次のようなことが起こっています。

  • 買い物に行くのに何を持っていけばいいのかわかる。
  • お金はどのくらいいるのかがわかる。
  • スーパーへの行き方がわかる。
  • たくさんの行き方がある中で、その状況にあった行き方がわかる。
  • 迷わずにスーパーにたどり着くことができる。
  • 交通ルールを守ることができる。
  • たくさんの商品の中からリンゴを選ぶことができる。
  • リンゴを買うということを覚えている。
  • 買い物のルールを理解している。
  • レジの店員さんが言った金額が分かる。
  • それに対していくら出せばよいのか分かる。
  • お金の価値を分かっている。

などなど。

意識はしていないかもしれませんが、「歩いてスーパーに買い物に行く」という簡単な行動だけでも、頭の中では自然にこれだけのこと、いやもっとたくさんのことを考え実行しています。

 

手や足が動く、目で見たり、音を聞いたりできるという機能を「一次機能」と言うのに対して、これらの頭の中の働きのことを「高次機能」と言います。

 

脳卒中や脳外傷などで脳に損傷を受けた場合に、このような頭の中の働きが出来なくなってしまうことを「高次脳機能障害」と言います。

 

もし高次脳機能障害の方が「歩いてスーパーに買い物に行く」と、次のようなことが起こるかもしれません。

  • 買い物に行くのに必要なものが分からない。
  • 道に迷ってしまう。
  • 道端で出会った猫に気をとられて、車にぶつかりそうになる。
  • 赤信号でも道路を渡ろうとしてしまう。
  • スーパーに来たら、何を買いにきたのか忘れてしまった。
  • スーパーでリンゴではなくケーキを買ってしまった。
  • お金をいくら出せばよいのか分からない。
  • レジの店員さんが何を言っているのか分からない。

 

高次脳機能障害では、脳が損傷された部位によってさまざまな症状がでます。

なので、上記のような症状が全て出るわけではありませんし、その一部が出たり、出なかったり、まったく違う症状が出たりします。

それが、私たち言語聴覚士にとっても、患者さん本人やご家族にとっても分かりにくいところだと思います。

 

 

高次脳機能障害の定義

「高次脳機能障害」という用語は、学術用語としては、脳損傷に起因する認知障害全般を指し、 この中にはいわゆる巣症状としての失語・失行・失認のほか記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などが含まれる。

引用元: www.rehab.go.jp

 

 

 

つまり高次脳機能障害とは、ごくごく大雑把に言うと、

・脳損傷(脳卒中、脳外傷など)が原因

・日常生活を送るために必要な認知能力が障害される

ことを言います。

 

高次脳機能障害に含まれる症状は多岐に渡ります。

専門用語もとても複雑でわかりにくいものが多いです。

ここでは特に、摂食・嚥下障害に影響を与える症状を取り上げてみます。

 

摂食・嚥下障害についてはこちらの記事をご覧ください 

 

 

摂食・嚥下障害に影響を与える症状

sponsored link

摂食・嚥下障害も高次脳機能障害も脳卒中後の後遺症として起こる障害です。

ですから、両者は合併して起こることもよくあります。

高次脳機能障害があることによって、摂食・嚥下障害に大きな影響を与える症状を4つご紹介します。

 

意識障害

ここでいう意識とは「覚醒している」状態の事を言います。

頭が働くには、最低限「覚醒している=意識がある」状態でないといけません。

医療従事者が患者さんと接したときにまず確認するのは意識があるかどうかです。

眠っていても、呼びかけたり、揺さぶったり、痛み刺激を与えることで意識のレベルを確認します。

全く反応がない場合は、「昏睡状態=意識がない」状態です。

脳卒中の発症直後は、意識レベルがはっきりしない場合が多いです。

また、呼びかければ目は開きますが、覚醒状態を維持できないことも多いです。

意識レベルがしっかりしていない状態では摂食・嚥下訓練やそのほかのリハビリも実施することが難しくなります。

 

意識障害に対する対処法

脳卒中の発症直後の場合は、治療が最優先されるため、場合によっては安静を保つために鎮静をかけることもあります。

治療が落ち着いてもなお、意識レベルが安定しないようであれば、できるだけ昼間はベッドを上げて体を起こしたり、可能であれば車椅子乗せたりすることで刺激をするようにします。

声かけも有効です。

 

余談ですが、意識がない場合でも、患者さんは周りの話している声などを聴いているような素振りを見せることがあります。

例えば、スタッフの声には無反応でも、孫の声には反応されるというようなことを、私自身も何度か経験しています。

本人の前で不用意な話はしない方がよいですし、家族からの呼びかけや、好きだった音楽などをかけるのも良いと思います。

 

 

注意障害

注意障害というと、「ついうっかり」するミスをイメージするかもしれません。

高次脳機能障害の症状としての注意障害は少しニュアンスが違います。

例えば、日常生活のなかで考えると、例えば、

  • 食事の時に、食べ物で遊んでしまったり、他の人のことが気になったりして、「食べること」に注意を向けて集中できない(集中の持続ができない)
  • スーパーに行って、たくさんの商品の中から自分が必要なものを見つけ出すことができない(必要なものの抽出が困難)
  • お味噌汁をつくりながら、肉じゃがの準備ができない(同時に2つの事ができない)

というような症状が現れます。

 

注意障害に対する対処法

注意障害があると、日常生活を送る上でも大変ですし、リハビリも集中して行うことができなくなります。

始めは注意障害そのものを改善しようとするのではなく、注意が集中できるような環境を整えるようにすることが大切です。

例えば、食事を取る時も、他の人がいるような場所は避けたり、テレビはつけないようにしたり、食べることに集中できる環境を周りの方が整えるようにします。

 

 

半側空間無視

これは「はんそく くうかんむし」と読みます。

文字のとおり、片側の空間を無視してしまう症状です。

多くは右の脳損傷で左側の半側空間無視が症状として現れることが多いです。

例えば、こんな症状が現れます。

食事の時に半側空間無視の方は、左側のものを無視しているので、上の絵のような感じで目の前の食べ物を認知しています。

グレーで網掛けしている部分は、本人にとっては「ないもの」と思っているので、①の絵でいうと、左側にあるご飯や、左上にあるほうれん草のおひたしは食べずに残してしまいます。

また、②のように認知される方もいて、そういう場合は各お皿の左半分だけ残されます。

見ているととても不思議なのですが、実際にこういう症状の方がいらっしゃいます。

 

ここで気をつけて頂きたいのは、半側空間無視の場合は左側半分が見えないというわけではありません。

②の場合だと、左側にあるご飯はちゃんと見えています。

視力としては見えているけれど、頭では見えていない、というのが半側空間無視です。

 

半側空間無視の対処法

半側空間無視の場合もまずは環境を整えてあげることで対応します。

上の絵の①の場合は、お膳ごと右側に寄せてあげることで、器全部を認知することができます。

②の場合はその対応だと難しいかもしれません。

途中でお皿の向きを変えてあげるお手伝いが必要です。

半側空間無視は本人が「左側が見えていない」ということに気がつくと改善が早いです。

「左側にご飯がありますよ」と声をかけて注意を促してあげることを繰り返すことで、自分で気がつくようになります。

気づくまでは多少時間がかかるかもしれませんが、根気よく続けてみましょう。

 

 

失行

「しっこう」と読みます。

失行は、身体の動きは問題がないのに、やろうとするとスムーズにできなかったり、全くできなかったりする障害です。

例えば、発語失行という障害があります。

頭の中で言いたい言葉がきちんと分かっているし、それを発音するためののどや舌や唇は問題なく動かすことができるのに、いざ言おうとすると、スムーズに発音が出来なかったり、違う音に間違えてしまったりする症状です。

 

(*厳密には、発語失行は、失語症や運動障害性構音障害と合併することもあります。失語症は頭の中で言葉が想起されていない場合もあります。また、運動障害性構音障害と合併した場合は口腔器官にマヒがあり、発音するための運動能力が低下します。言語聴覚士としては、発語失行、失語症、運動障害性構音障害の鑑別は必須ですが、ここでは失行を分かりやすく説明するために、このような形にさせていただきました。)

 

また、嚥下失行という障害もあります。

何もしていないときに唾は飲みこむことができるのですが、「唾を飲みこんでください」というと全く飲みこむことが出来ないという症状がでます。

こんなことがあるのか、とお思いになるかもしれません。

できる時とできない時があるので、とても分かりにくい症状です。

でも実際にそういう患者さんもいらっしゃいます。

重度の場合では、唾も飲みこむことが出来なくなってしまう方もいらっしゃいます。

こうなると、リハビリをすることも難しくなり、他の栄養を摂る手段を考えなければならなくなります。

 

 

食べられない判断基準についてはこちらの記事をご覧ください

 

重度の嚥下失行の患者さんを経験しました

「唾を飲みこんでください」といっても飲みこむことができないその患者さん。

時々、自然に唾を飲みこむことはありましたが、いざ、飲みこもうとすると、どこをどう動かしたらよいのか分からない様子でした。

もちろん、口から食べることができないため胃ろうを造設。

少しずつ、少しずつ、その患者さんの好きなものをなめるところからリハビリをし、今では1日1食だけ食べることができるようになっています。

ここまで達するのに時間はかかりましたが、胃ろうと合わせてリハビリをしたことによって、口からも食べられるようになった方の例です。

 

認知症とはどうちがうのか?

高次脳機能障害で現れる症状には、認知症で現れる症状と似ているものもあります。

両者とも「脳の損傷」が原因で起こるものなので、合併して現れる場合もありますし、厳密に両者を区別することは難しいのが現状だと思います。

研究者の中には認知症も高次脳機能障害の中に含まれると言っている人もいます。

ただし、年齢が比較的若い方で交通事故後の注意障害や記憶障害などの後遺症については、高次脳機能障害と言ってよいと思います。

重要なのは区別することではなく、高次脳機能障害でも認知症でも、その方の症状に合わせた対応をしていくことなのではないか、と思います。

 

まとめ

非常に分かりにくい「高次脳機能障害」についてまとめました

  • 私たち人間は「高次機能」をフル回転させて日常生活を送っています。
  • その「高次機能」が使えなくなると、日常生活に支障をきたします
  • 脳卒中、脳外傷後に、日常生活を送るために必要な認知能力が障害されることを「高次脳機能障害」といいます。
  • 高次脳機能障害は、脳の損傷部位などによってさまざまな症状がおきます。
  • 摂食・嚥下障害のリハビリに影響を与える症状として意識障害、注意障害、半側空間無視、失行があります。
  • 高次脳機能障害と認知症を厳密に区別することは難しいですが、区別することよりも、その方の症状に合わせた対応をしていくことが大切です。

 

 

脳卒中についてはさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。

sponsored link


 - 脳卒中について , , , , , , , , , ,