
食べ物や飲み物を外から口の中に取り込んで、のどを通り、食道を通って胃に送りこむまでの一連の動作を、摂食・嚥下(せっしょく・えんげ)と言います。
摂食・嚥下は次のように5段階に分けて考えることができます。
- 食べ物を認識する 先行期
- パクパク、もぐもぐ 準備期
- まとめて送り込む 口腔期
- ゴックンと飲みこむ 咽頭期
- 胃まで運ぶ 食道期
ここでは第2段階の準備期と第3段階の口腔期で起こりうる問題点とその対処法を説明します。
もくじ
準備期とは
先行期で認識された食べ物が口の中に取り込まれ、歯で噛んだり、舌と上あごで押しつぶしたりして細かくし、唾液とよく混ぜて、飲み込みやすいようにひとまとまりにするのが準備期です。
ひとまとまりになった食べ物を食塊(しょっかい)と言います。
この時に、味や食感を感じます。
口腔期とは
舌が口蓋に押しつけられて、食塊をのどの奥へ送り込む段階を口腔期と言います。
準備期と口腔期の問題点
歯の問題
歯でしっかりとかんで、食べ物を細かくすることを咀嚼(そしゃく)といいます。
歯が無いと咀嚼できません。
入れ歯でももちろん大丈夫ですが、その場合はきちんと口の中に合っている必要があります。
誤嚥性肺炎などで長期間口から食べていないと、その間に歯茎も痩せてしまって、それまで使っていた入れ歯が合わなくなってしまうこともあります。
また、歯が残っていたとしても、歯周病で歯がグラグラだったり、治療をしていない歯がある場合は、そのせいで咀嚼がしにくい場合もあります。
口唇の問題
脳卒中の後遺症で口唇にマヒが出る方がいます。
脳卒中後に半身にマヒの後遺症がある場合、口唇・舌にもマヒが出ることがあります。
マヒがあると力が思うように入らなかったり、しびれて感覚が鈍くなってしまい、口唇をしっかり閉じることが難しくなるため、咀嚼している間に、食べ物がぽろぽろこぼれたりします。
また水分を飲むときにも、マヒのある側からこぼれてしまうことが多くなります。
食事以外の普段の時には、よだれが垂れることがあります。
舌の問題
脳血管疾患の後遺症で舌にマヒがある場合や、癌などで摘出術をした方、放射線治療をした方は、舌の運動障害が出ることがあります。
固いものが押しつぶせなかったり、食塊を作ることができなかったりします。
その結果、頬と歯の間や、下の歯の裏に食べ物が残ることがあります。
マヒの状態が重いと、呂律が回らず言葉がしゃべりにくくなります。
この障害を構音障害と言います。
構音障害についてはこちらの記事をご覧ください
口蓋垂(のどちんこ)の問題
口を開けてのどの奥、一般的に「のどちんこ」と言われる部分は、食べるときにとても重要な役割を果たします。
ここも脳卒中などの後遺症で運動障害が出ます。
口腔期で食塊を送り込むときに、のどちんこが挙上して、鼻腔をふさぎ、食塊が鼻の方へ逆流するのを防ぎます。
マヒでのどちんこが十分に上がらないと、食べ物が逆流したり、食事中に鼻水が出たりします。
口蓋垂にマヒがあるかどうかを確認するには、口を大きく開けて「あっ!」と叫んでみます。
その時にのどちんこが上がるのが正常です。
のどちんこがしっかり上がらないと、鼻にかかったような声になります。
(ただしマヒはなくても、もともとしっかりのどちんこが上がらない人もいます)
その他の問題
口の中が汚いまま、食べ物が入ってきても、味や食感を感じにくく、さらに次のゴックンという反射が起こりにくくなります。
味が分からないと食べる気力も落ちてしまうことがあります。
準備期・口腔期に問題がある場合の対処法
食事前に口の中をきれいにする
先行期でも説明しましたが、食事の前に口の中をきれいにすることは準備期、口腔期に関しても有効です。
口をゆすいだり、自分でできない場合は介助者が拭いてあげてください。
この時に舌はあまりごしごしこすらないほうがいいです。
舌の表面には味覚細胞があります。
あまり強い力でゴシゴシこすってしまうと、味覚細胞を傷つけてしまう恐れがあります。
優しく、スポンジで拭くようにしましょう。
入れ歯の確認をする
1週間以上口から食べておらず、その後食事を再開する場合には、入れ歯がきちんと合うかどうか確認しましょう。
入院している場合は看護師や言語聴覚士、歯科衛生士にお願いすることもできます。
家族で確認される場合は、入れ歯をはめて、カチカチと嚙み合わせてもらい、入れ歯が落ちてきたり、動いたりしなければ大丈夫です。
もし合わない場合は、無理に入れ歯を入れて食べるのではなく、歯がなくても食べやすい食事形態に変更することを勧めます。
不安であれば、看護師や言語聴覚士に相談してください。
口の体操をする
口唇、舌、ほほ、口蓋垂(のどちんこ)のマヒを改善する方法として、口の体操があります。
口唇の体操
- 大きく口を開けます ⇔ 閉じます
- 口唇を横に引いて「イ」の口 ⇔ 口唇をとがらせて「ウ」の口
- 頬を膨らませる⇔頬をへこませる
- 右の頬に空気を入れて膨らませる ⇔ 左の頬に空気を入れて膨らませる
各運動を大きく(動かせる最大限の範囲で)、ゆっくり10回ずつおこないましょう。
舌の体操
- 舌を出す
- 舌で唇の左右の端につける
- 舌で左右のほほをおす
- 舌で唇の周りをなめる
- 口の中で舌を回す
各運動を大きく(動かせる最大限の範囲で)、ゆっくり10回ずつ行いましょう。
口蓋垂(のどちんこ)を持ち上げるペットボトルブローイング
上級編になりますが、口蓋垂(のどちんこ)を持ち上げる訓練として有効なのがペットボトルブローイングです。
<準備するもの>
- ペットボトル(キャップもつけておく)
- ストロー
- 穴を開ける道具(キリ、ドライバー、ライター)
<やりかた>
- 10秒間×10セット
- 強く短く吹く×5回
- なるべく長く吹き続ける
無理のない範囲で、自分のペースで行うようにしてください。
ペットボトルのキャップをゆるくつけた状態であれば、軽い運動に、きつく締めた状態であれば、少し負荷のかかった運動になります。
食事形態を工夫する
摂食・嚥下障害があっても、何らかの形で食事はとらなければなりません。
現状で患者さん本人の力ではどうにもならない場合は、食べる食事の形態を変更してみましょう。
入れ歯がなく咀嚼するのが難しい場合や、口の中で食塊を作ることが難しい場合はミキサー食にすると食べやすくなります。
患者さんの食べる力が回復してきたら、少しずつ形態を形のあるものへ変更していきましょう。
軽度の摂食・嚥下障害の方の食事形態についてはこちらの記事をご参考ください。
まとめ
この記事では摂食・嚥下の5段階のうち、先行期に続く、準備期・口腔期についてまとめました。
- 歯・口唇・舌・口蓋垂(のどちんこ)にマヒなどの問題があると、準備期・口腔期がスムーズにいきません。
- 食べ物が口からこぼれる、口の中に残る、などの問題がでます。
- 歯の治療や入れ歯の調整、口の体操、食事形態などの工夫をすることで安全に食べられるようにします。
ほんのわずかに舌が動かしにくいだけでも、いつものように食べることが難しくなります。
健康な人にはなかなか想像がつかないかもしれません。
それでも、食事はとらなくてはいけません。
はじめのうちは、患者さんの能力に合わせて、食事形態や環境を整えて、しっかり食べられることを目標にしましょう。
食べることそのものもリハビリとなります。
次の記事も続けてご覧ください
摂食・嚥下障害についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。