
食事の時に、何かの拍子で息道に入ってしまって激しくむせ込むという経験は誰にでもあるのではないか、と思います。
とても苦しくて、涙も出てきますよね。
そんな激しいむせの頻度が、最近多くなってきていませんか?
歳をとってくると、のどの力も衰えてきて、むせやすくなることがあります。
放置しておくと、後に肺炎になったり、それが原因で命を落とすことももあるかもしれません。
この記事では、なぜむせてしまうのか、飲みこみのメカニズムから紐解いてみたいと思います。
また、むせないための対処法も合わせてお伝えします。
もくじ
口からのどへはどうなっているの?
人間の頭を正面から縦に割って、横から見ると上の図のようになります。
口からの通り道 口腔
鼻からの通り道 鼻腔
この口腔と鼻腔が合流するのが咽頭です。
そこから、
前(腹側) 肺までの通り道 気道
後ろ(背側) 胃までの通り道 食道
この気道、食道と二つの通り道が続いていきます。
通常は息をしたり、おしゃべりをしたりするので、気道が開いていて、食道は閉じています。
食べ物が入ってきてゴックンと飲み込むときにだけ、気道にフタがされ、食道が開きます。
これが飲みこみのメカニズムになります。
飲み込みのメカニズム
確実に食道へ食べ物を通過させるために、口からのどにかけて流れるような動きをしています。
口蓋垂が上がり鼻腔が閉じられる
舌が口蓋に密着し口腔が閉じられる
のどぼとけが上前方に上がり、喉頭蓋が閉じて気道が塞がれる
食道の入り口が開いて、食道へ食べ物が入っていく。
この間、わずか0.8秒。
私たちが食べ物をゴックンと飲み込むたびに、口からのどにかけては食道以外の3つの通り道が塞がれ、確実に食べ物が食道に運ばれるように、お互いに連携しながら動いているのです。
誤嚥と窒息
ところが、歳を取ってきて体力が衰えてくるのと同時に、のどの筋肉も衰えてきます。
また、のどぼとけも歳を取るにつれて下がってきてしまいます。
さらに、脳卒中などの病気をすると、麻痺によって、このゴックンの動きがスムーズに起こらなくなることがあります。
そうなると、ゴックンとしても喉に食べ物が残ったままになったり、気道のフタが確実に閉まる前に水分が入っていってしまうことがあります。
このことを誤嚥と言います。
誤嚥とは、食道ではなく、肺の方へ食べ物や飲み物が入ってしまうことです。
肺の中で炎症を起こすと、誤嚥性肺炎になります。
また、食べ物で気道を塞いでしまうと、呼吸が出来なくなるので窒息してしまいます。
誤嚥についてはこちらの記事もご覧ください。
▶参考記事 誤嚥ってそんなに危険?脳卒中急性期の嚥下障害で誤嚥を防ぐ2つの鉄則とは。
むせのメカニズム
誤嚥も窒息も命に関わることです。
なので気道に異物(食べ物など)が入りかかったときに、強い咳が反射的に起こることによって、窒息や肺炎を防ぎます。
これがむせのメカニズムです。
むせは人間の体に備わった防御機構なのです。
むせと咳の違い
ちなみに、むせと咳の違いについても確認しておきます。
言語聴覚士がリハビリの際、患者さんに「お食事のときにむせることはありますか?」と尋ねると、「ありません」と答えるのですが、「咳はでますか?」と尋ねると、「出ます」とおっしゃられることがあります。
むせも大きく捉えると咳なのですが、特に食べ物や飲み物が詰まりそうになった時にでる咳のことをむせというと考えて頂ければよいと思います。
何でむせますか?
体の防御機構とはいえ、むせるのはとても苦しいものです。
でも、薬で抑えることはできません。
ではどうしたらよいのでしょうか?
次の①と②では、どちらがむせやすいと思いますか?
①水分(お茶、水など) ②固形物(食べ物全般) |
一般的には②の固形物と思われがちだと思います。
実は、飲みこみのことだけを考えるならば、①の水分の方が難しいのです。
さらっとした液体はのどを通りすぎる速さが、固形物に比べてとても速いので、その通り過ぎるタイミングに合わせてゴックンと飲み込むことが難しいのです。
少しでもタイミングがずれると、むせてしまいます。
①水分でむせてしまう場合の対策
むせてしまうかたの大部分が、水分でむせてしまうことが多いのではないかと思います。
その対策としては
・少しずつ飲む
一気にゴクゴク飲みたいかもしれませんが、飲み込みにくさを自覚し、少しずつ飲むように心がけてみてください。
・冷たくする
ゴックンは反射で起こっています。刺激が強ければ強いほど、しっかり反射は起こります。熱い飲み物でも構いませんが、その場合は火傷に注意してください。
・とろみをつける
いま介護用品売り場ではとろみ剤が各種販売されています。少しとろみをつけるだけでもむせを防ぐことができる場合があります。
また、食事の時だけではなく、薬を飲むときや、歯みがきをするときにも注意が必要です。
薬を飲むときにもむせるようであれば、服薬用のゼリーが販売されているので、それを利用するのも一つの方法です。
歯みがきのうがいの際にも、少量の水分でむせてしまうことがあるかもしれません。
上向きでのうがいは厳禁。下向きのぶくぶくうがいも慎重に行ってください。
②食べ物(固形物)でむせてしまう人の場合
水分でむせる方よりも、重症の場合が考えられます。
飲みこみだけではなく、お口のなかの動きや入れ歯などに問題がある場合もあります。
きちんと症状を評価し、個別に対応が必要です。
特に、むせてしまうために食欲が落ち、体重が減ってしまっているような方は早急に受診してください。
まとめ
私は言語聴覚士として、飲みこむことが難しくなった人(嚥下障害)のリハビリをしています。
普段、何も考えずに食べたり飲んだりしていますが、いざ、飲み込めなくなってしまうと、本人も見守る家族もとても戸惑われます。
「なんでこんな簡単なことができないのか!」と。
実はとても複雑なメカニズムで飲みこむという運動をしていたのです。
あまりに「当たり前」にできていたので、いざできなくなると、どこをどう動かせばよいのか分からなくなってしまうのです。
水分を飲むときにむせる方は、まだ嚥下障害の初期と思われます。
- 少しずつ飲む
- 冷たくして飲む
- とろみをつけて飲む
まずはこの3つを試してみてください。
飲みこむことは無意識に行っていて、むせることも「たいしたことない」と思ってしまうかもしれませんが、あまりにむせがひどい場合には、早目に医師に相談することもオススメします。
摂食・嚥下障害についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。
誤嚥性肺炎についてさらに知りたい方は、こちらの記事を合わせてご覧ください。