
食べる楽しみがなく、直接胃の中に栄養剤を、朝・昼・晩と機械的に注入されて、「生かされている」だけ、というイメージがある胃ろう。
そういうイメージから胃ろうを作ることを拒否される方や、ご家族が多くいらっしゃいます。
もちろん、人それぞれ生き方、死生観などは違うのでどういう選択をされても、本人、ご家族が納得されればそれでよいと思います。
ただ、胃ろうのメリットを生かせるのに、偏った考え方で選択肢を狭めてしまうのはとてももったいないことだと思います。
ここでは、他の栄養を摂る手段と比較して、胃ろうのメリットについて考えていきます。
もくじ
栄養を摂る手段
口から食べられなくなった時にそれに代わる栄養を摂る手段として、たいてい次の3つがあげられると思います。
- 点滴で高カロリーの輸液を入れる
- 鼻からチューブを入れる
- 胃ろうをつくる
胃ろうをつくるメリット、デメリットを、他の2つの栄養を摂る手段と比較して考えてみます。
点滴で栄養を摂る場合と比較して
点滴で高カロリーの輸液を入れる方法のことを中心静脈栄養と言います。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
①身体の自由がききやすい
中心静脈栄養は高カロリーの輸液を非常にゆっくりな速度で滴下するので、ずっと点滴につながれている状態になります。
それに対して、胃ろうは栄養を注入するときだけ長い管をつなぎますが、それ以外の時間は衣服のなかに隠れてしまいます。
長い管を気にしなくてよいので、嚥下リハビリだけではなく、理学療法や作業療法のリハビリも集中して取り組むことができます。
それでなくても、長い管に一日中つながれている状態というのは、寝返りなどの小さな動きから、車椅子への移乗、歩行、トイレ動作など日常的な動きをする時にも、管を気にしなくてはならないので、相当なストレスになります。
また、認知症の方の場合、中心静脈栄養で怖いのは、自分で管を引っ張ってしまい、針を抜いてしまうことがあります。
針を抜いてしまうと危険なため、安全策として手にミトンをはめたり、手をベッド柵に固定したりする「抑制」をされることもあります。
胃ろうの場合は食事の時間のみ気をつければよいので、仮に「抑制」をする必要があっても、短時間で済みます。
②介護の負担が軽い
中心静脈栄養は合併症に気をつける必要があり、それを防ぐためには医師や看護師による厳重な管理が必要となります。
中心静脈栄養の患者さんは、看護師が24時間常駐していない施設では受け入れてもらえないことがあります。
また、在宅の場合は、医師、看護師だけではなく薬剤師も含めたチームでの手厚いサポートが必要となります。
胃ろうの場合は、指導を受けることで介護する家族でも比較的簡単に取り扱うことができます。
施設の受け入れも可能ですし、在宅療養も可能です。
③胃や腸の消化機能を使って栄養を摂ることができる。
中心静脈栄養は心臓に近い静脈に細い管を入れ、そこから高カロリーの薬剤が注入されると、いったん心臓に入り、心臓から全身にカロリーが回ります。
胃ろうの場合は、栄養剤は胃に入り、腸で消化・吸収され、血液のなかに入り全身にまわります。
中心静脈栄養の場合は、胃や腸を使わずに栄養摂取が可能なので、胃や腸などに疾患がある方にも使える方法ではありますが、逆に胃や腸を使わないことで、腸の動きが悪くなってしまい、消化機能が衰えてしまう可能性があります。
経験的に脳卒中後の嚥下障害で食べられなくなった方が胃ろうを作り、腸からしっかり栄養が入ることによって、顔つきがしっかりしてこられたり、肌ツヤが良くなったり、みるみる元気になられる姿を何例も見ています。
こういうことは中心静脈栄養などの点滴ではあまり感じられません。
やはり、胃や腸から栄養を吸収し消化するという、人のカラダの本来の機能を生かすことはとっても大切なことなのだと感じています。
鼻チューブで栄養を摂る場合と比較して
鼻からチューブを入れて栄養を摂る方法の事を経鼻経管栄養と言います。
経鼻経管栄養についてはこちらの記事をご覧ください。
①身体の自由がききやすい
経鼻経管栄養は栄養を入れる時間は胃ろうと同じですが、鼻から胃にかけては常に管を入れている状態です。
常に、顔に管がついている状態になるので、見た目もあまり好ましいものではありませんし、気にして触ってしまう方もいらっしゃいます。
認知症でなくても、管を誤って抜いてしまわれる方も多く、その場合は1日中抑制されることもあります。
胃ろうの場合は、栄養を入れている時間のみ管がつながれるので、その他の時間帯は管のことを気にする必要がなく、リハビリも集中して行うことができます。
②将来口から食べるための嚥下リハビリを行いやすい
経鼻経管栄養の管はのどを通っているので、飲み込む練習をする際には支障をきたすことがあります。
常に粘膜に管がついている状態なので、感覚が鈍磨し、嚥下の時に大切な嚥下反射や咳反射が鈍くなることもあります。
また管に細菌がつきやすく、適切なケアをしないと、細菌と唾液がまじりあい誤嚥してしまう可能性もあります。
胃ろうではこのようなことはないので、しっかり嚥下リハビリを集中して行うことができます。
③管の交換の負担が少ない
経鼻経管栄養は約2週間ごとに、管の交換をします。
その交換作業は患者さんにとっては苦痛を伴うものです。
さらに、誤って肺に管が入っていないか確認するためのレントゲン撮影も行われます。
胃ろうの管の交換は約半年ごとです。
胃ろうの管を抜くときには軽い痛みがありますが、患者さんの負担は軽く、交換はとても簡単なものです。
ただし、胃ろうの場合も交換は医療機関で行う必要があります。
まとめ~胃ろうのメリットはこう生かす
口から十分な栄養を摂れない場合の選択肢の一つとして胃ろうがありますが、胃ろうをつけたからといって口から食べられないわけではありません。
胃ろうをリハビリのための手段として作る場合もあります。
個人的には、年齢が70歳代くらいまでの方で、脳卒中発症直後に嚥下障害となり、食べられなくなって、回復に1か月以上かかるような場合には、胃ろうを作ったほうがよい場合が多いと感じています。
胃ろうを作ると、しっかり栄養が入ることによって体力がつき、集中してリハビリを行うことができます。
もちろん、嚥下リハビリもしっかり行うことができます。
そうすると、徐々に嚥下能力も改善し、徐々に食べられるようになります。
だんだん食べられる量が増えて、胃ろうから栄養を入れる必要がなくなれば、胃ろうは抜去することもできます。
穴はしばらくすると、自然と塞がります。
リハビリの回復期というのは限られた時間なので、その時間を有効に使うために胃ろうを作るということは決して悪い選択ではないと思います。
胃ろうに対して、「過度な延命治療」をいうマイナスのイメージを持たれていることが多いのですが、リハビリの手段としてつくるのであれば、患者さんにとっては有益な治療となります。
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